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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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コンセントとスイッチ

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言うなればそれは、なにかのスイッチが入った、と言う感じ。


■コンセントとスイッチ


その時の感覚は、きっとそうなった人しか分からない。

機械であるモビルスーツの心臓がバッテリーだとすれば、パイロットである人間は脳のようなものだ。思考し、命令の通りにそれを動かす。機械は「思考する」と言う機能を最初から持ち得ないから、人間がそれを補って初めて意味があるものとなる。
だから機械は、命令通りの答えしか返してくれないし、命令を下すパイロットの能力にその機能を左右される。期待通りの成果を上げるには、人形ではダメなのだ。優秀な「人間」でなくては。
でも今、思考する筈の人間である自分は時々、機械の一部になっている。視神経とメインカメラが直接繋がっているように視界が開けて、一ミリ単位のグリップの調整すらやってのける。およそ考えられないほどの反射神経と、的確な動作。
確かにパイロットはコックピットに座った時からモビルスーツの一部になる。けれどそんなに、優しいものじゃない。
その時たったひとつ、自分の脳が決めた事に従って、他に気を配る余裕は排除されている。命令に忠実な機械の一部に、確かになってしまう。
だからいつか、自分が引いた引き鉄で、なにもかもを壊してしまうんじゃないか、と言う恐怖。
そう、確かにその時の自分が望むもの。
行きつく先はきっと、あの人と同じところだ。

人形みたいだな、と思った。
アスランとは違う意味で、整った表情から受ける印象は冷たい。それでも一瞬後に目が合えば、不意に目許を和ませて微笑う。
相変わらず不思議な事だらけだな、と思っていたら、ある時キラは少しだけ哀しそうな目をして語った。
「…僕は、種を持っているんだって」
SEEDと呼ばれる、およそ専門家にしか分からないSuperior Evolutionary Element Destined-factorと言う遺伝子学上の略語。その言葉が気になって少し調べてみた。それを持つ者は、人類として次のステージに行かれる、らしい。つまりは、ヒトが進化すると言う事なのか。
「なんだよ次のステージって」
ゲームじゃあるまいし、とディアッカは溜息を吐く。
それが発現している時はああ言う顔をするわけだ、と妙に納得した。けれどそれが必ずしも人類にとって歓迎出来る現象であるとは思えない。
人間の能力を遥かに凌駕し、限界を見せないその姿は、まるで。
「…機械、みたいじゃん…」
それともいつか、第三、第四世代のコーディネイターたちも同じ道を辿って行くのだろうか。パトリック・ザラの言うように、コーディネイターが進化した種だというのなら。
別にコーディネイターだけじゃないよ、とキラは言った。
「突然変異、だから。ナチュラルにも可能性はあるし…それに、もしかしたらみんなが成り得るものなのかも知れない」
怖いね、と微笑を浮かべて続ける。
「…止めてくれる人がいないと、ダメかな…」
その横顔は、遠い。

戦闘が終る。
今日も自分を護り、他の何かを護ってくれた機体から降りて、真っ直ぐ向かった先。同じように自分の操る機体から空を漂うように降りて来た細い腕を掴んだ。
「…なに」
一瞬固まってから出した反応は、何処か浮世離れしたと言うか、人間味に欠けている。
「…いいから、ちょっと来い」
精巧に作られた人形のような表情を、いつものぼんやりした間抜けなやつに戻すには。
止めてくれる人が必要だと言ったから、ディアッカはそれを実行する。他にそんな余裕のある人間は取り敢えず居そうもないし、キラの事をそこまで気にかけているとも思えない。
中身がどうであれ、自分達を護ってくれる存在であれば彼らにとってはそれで良い。脅威とならなければ、それで。
戦闘後の慌ただしさからかけ離れた居住区の一角。そこに、自分とキラの部屋がある。大人しくついて来たキラを軽く振り返って扉のロックを解除すると、細い肩を抱えるようにして部屋に入る。
「…ああ、このまんま来ちまったな。」
そこで、格納庫からここまでパイロットスーツのまま来てしまった事に気付いた。まあ良いか、と呟き、相変わらず何処か感情の見られないキラに向かってそれ脱いで、と声を掛けた。
「返しに行くから、待機室に」
その言葉に素直にパイロットスーツを脱ぎ始めたキラに、苦笑を零した。本当に、幼い子供か、もしくは命令に忠実な人形のようだ。その気がなくても、今なら簡単に押し倒せそうだと。
手持ち無沙汰そうにパイロットスーツをぶら下げた手からそれを受け取って、おもむろに軽く足払いを掛けた。
「わ…あッ」
片手で背中を受け止めて衝撃を和らげると、お世辞にも柔らかいとは言えないベッドの上に降ろす。
「…いいから、ちょっと寝てろ。こっち側に戻って来ないとな?」
その言葉にきょとんとしたキラは、次いで微かに微笑った。
「…止めてくれる人?」
くすくすと毛布の陰で笑い続けるキラに、欲しいっつったじゃんよ、と応える。
「一応、そのつもり。…もっとはっきり示してやろうか?」
些か硬いスプリングのマットに片手をついて、疑問符を飛ばしながら微かに上げた顎を掴んで口付ける。長いようで短い触れ合いが終ると、顔を真っ赤にしたキラがなにするの、と呆然とした抗議をする。
「お、お帰り」
戻った表情に安堵しながら、態と軽い口調でそう言って。
「ほら、少し寝とけよ。これ以上進まなねぇ内にさ」
青いパイロットスーツを片手にベッドを離れると、最低、と小さな抗議が聞こえた。
「解り易くてイイだろ、これ」
室内を振り返ると、相変わらずむすっとした顔のままキラはそうだね、とぶっきらぼうに答えた。
「…じゃあ、責任持って止めてよね」
やっぱり子供っぽい、と思いながらも苦笑混じりに頷く。
「了解」

赤いパイロットスーツが扉の向こうに消える。
止めてくれる、と言ってくれた人。
そう、出来れば。
「…殺してでも、止めてよね…」
間違った方に行く前に。
僕が、世界を壊す前に。

止めてくれる人が居る。
そう思えば、狂った心を抱えていても少しだけ。
「…約束」
少しだけ、軽くなる。