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diamante ( 改稿 )

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    それに触れる指先が、気に入らなかった。




「――おい、まさかそれで行く気じゃねえだろうなあ?」
「へ?行く気だけど?」
 その、すっとぼけた童顔に、本来ならば鉛弾を浴びせてもいいはずなのに、腕はまったく反応しなかった。
 ごまかすように、利き手をポケットにつっこめば、だって、と拗ねた子どものように、童顔男が口元をとがらせる。
「――おまえ、前、これのこと褒めたよなあ?」
 これ、と示したのは、その男の袖元で輝く、カフリンクスだった。
 ――褒めたのは、それの出どこがわかる前だ。
「褒めてねえ」
「ええ?褒めたよ。『お前にしちゃあずいぶん上出来な品選びだ』って」
「選んだのはお前じゃなかったんだから、褒めたうちにはいらねえぞ」
「でもさあ、これを、褒めたってことだろ?」
 しつこいそれにも、懐のものまで手をのばせずにいる自分にした舌打ちに童顔が返したのは、聞きたくもない単語だった。
「――なにしろダイヤだし」
 ダブルカフスを飾るその輝きは、まさしく本物だ。
 しかも、輝きをおさえるためにわざとスクエアカットされているその石の色は、オレンジがかった暖かみのあるブラウンだ。土台のプラチナが、そのばかげた大きさの石を、人工石であるかのように演出しているが、見る人間が見れば、本物であることは知れる。
 ――そう。  『本物』であることを。
 愛用の銃の代わりに掴んでいたのは、元教え子の手首だった。
「いでででで!!なにすんだよお!?」
「――いいか?教えておいてやる。少し前に、ソッチのほうじゃあひどく話題になった競売品がある。大昔、貴族のご婦人が愛用したブローチでな、今の時代に珍しいほどの、大粒のブラウンダイヤが使われている希少価値の高いものだった。もちろん、台は金。他にもルビーやエメラルドが使われた、成金らしい趣味の細工だが、時代というものを上乗せした立派な作品だ。それを、――現代の、どこかの成金が落札しやがった。代理人を立てて、一気に値を上げてな。とんでもねえ額だ。もちろん誰が手に入れたのか、みんな知りたがった。普通、代理人を立てるのは、身元をばらしたくないからだ。これも、買った人間が誰かなんてわからないと思っていた。――が、それを買ったのは自分ですなんて、吹聴してるやつを見かけちまったぜ」
「へ、へええ・・・その、せんせ?何故おれに怒ってるわけ?」
「おまえに?おれが?はっ、なんで怒る必要あんだ?」
「知らねえよ!だって、腕!手!さっきから力強まってるし!」
「このカフリンクス。――なんで、貰ったって言わなかった?」
「はあ?・・・なに?おれ、貰ったもん、ぜんぶおまえに報告しなくちゃいけないわけ?ででででで!!いでえ!」
「いいか?このブラウンダイヤは、その価値のあるブローチを、ただこのダイヤを取り出すためだけにぶったぎって、取り出されたもんだ。歴史的価値なんて、少しも理解できないバカによってな」
「いでで・・え?じゃあ、えっと・・」
「そうだ。これを贈ってきたあのバカは、骨董品の冒涜者として、ひどく有名になっちまってるぜ。それをもらったおまえもな」
「うえええ!?マジ!?」
 ――このところ急成長だというファミリーの視察のためにまぎれ込んだパーティーだった。確かに、バカみたいに金をかけたその催しと、若いゆえの勢いと押しの強さだけで拡大してきたとうかがえるそのボスを目にして、踵を返したときだった。


 ほんとうに、あのブラウンにはやられたよ。あれは、『本物』だ。


 その男が、身振り手振りで語り始めたのは、最近であった巨大組織の童顔なボスの話だった。
 その、内容は、端的にいえば、噂とちがって、いかにその童顔が、ボスに向いているかという賛辞なのだったが・・。
 ――― これじゃあ、狂信者だ。
 興奮気味な男は、熱をこめ、いかに自分がその相手に酔ったかを、とくとくと説明し、そうして最後にこう言った。


 だからね、あのブラウンダイヤを見たときに、あまりにも、彼の『あの』ブラウンに似ているものだから、これはもう、ぜったいにぼくが手に入れないと!って思ったんだ!


 手にいれたそれを、彼に似合うように加工して贈ったのだと ――。相手はそれを、ひどく気に入ってくれたのだと。興奮してまわりにつたえる男の顔は、やはり、狂信者のものだった。



「あのバカのところとは、とっとと手を切るんだな」
「ええ!?でも・・」
「もうひとつ、教えておいてやる」
 掴んでいた手首を投げ捨てた。
「おまえがこれから会おうとしてるファミリーのじじいはな、そのカフリンクスのバカとひどく相性が悪いことで有名だ」
 赤くなった手首をさする童顔は、なさけない顔で袖を直しながら、薄く笑った。
「―――知ってるよ」
「――なに?」
「知ってる。っていうか、だから、これを付けていこうかと思ったんだよねえ」
「・・・・・」
 改めてそこにはめた石を、その細い指先がなでる。
「その『じじい』を、ちょっと焦らそうかと思ってさ。ディーノさんと相談して、これをつけることにしてみたんだけど・・・」
 ちらりと、上目にこちらをうかがうのは、ひさしぶりにでた昔のくせだ。
「――やっぱ、おれにはそんな作戦、まだ早いかな?」
「・・・おい、ツナ・・・。おまえ、わざと、あのバカをたらしこみやがったな?」
「たらし・・・別の言い方してくれよ。だいいち、とりあえずあの人を取り込むように進言してきたのは、おまえだろ?」

    
     『青臭い分、こっちにとりこめばハマっちまうだろ』


 ――たしかに、そう。
  
  ――思ったとおりだったわけで・・・・。
  

「・・・狂信者は、もう、いらねえだろ」
「は?わあああっレオン!?どっから!?ってか、食べるなあああ!!ああ!ダイヤがああ!!吐き出せえええ!!」
「ほお。おれの相棒に手えだすとは、いい度胸してやがるなあ?」

  
         
          
           ―――『本物』ならば、こうして愛(め)でてやるもんだ。
          

作品名:diamante ( 改稿 ) 作家名:シチ