夕暮れ時の休息
「腰いってぇ」
「うわ、親父がここにいる」
「うるせぇ役立たず」
雄二の言葉に一瞬言葉に詰まった。たしかに、まったく役に立っていない自覚は、ある。営業として外に出ても取引先で失敗して何故だか温かい目で「頑張ってね」などといわれる始末だし、秀吉のように要領はよくないし、ムッツリーニのように商売上手でもない。口下手なわけではないのだけど、緊張すると噛んでしまう癖はいまだになおっていなかった。
「まともに出来るのはお茶だしくらいだもんなお前」
「うう……」
それを言われると辛い。
お茶入れは得意だし、好きだけれどもう少し役に立つことをしたいのだ。かといって、何かが出来るわけではないけれど。事務所の掃除も嫌いじゃないけど。
「……お茶変えたのか?」
さきほど明久が持ってきた湯のみを手に取り、一口啜ってから雄二がぽつりと言う。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのと、他のことを考えていた動揺から言葉が一瞬出てこなかった。
「へ、な、なんで?」
「…………いや、別に」
雄二はそれ以上つっこむこともなく、お茶をすする。そっと背中を窺うが、なんとなく思っただけなのか本当に気づいているのか判断がつかない。雄二のくせにと思いながらも、あまり見ていると気づかれると思ってそっと視線を外し、また天井を見上げた。
疲れていることなんてとっくの昔に気づいていて、一度独特の味がするそのままに出したことがあった。それを嫌がったからこそ味を変えてみたのだけれど雄二がそんな繊細なところまで気が付くはずがない。うん、きっとそうだろう。
(ぶっ倒れるまで無茶するからなぁ、こいつ)
しかも倒れてもやめようとしない。仕事人間というよりは、目標を達成するまで妥協しない性格なだけ。融通のきかない奴は面倒くさいなぁと思いながらからっぽになった湯のみを見てこそりと笑った。