Complicated GAME
ひとしきり笑ったイブカが紅茶のポットに手を伸ばすまで、アルは半ば口を開けて呆気に取られたままだった。
テレビ画面が中継の様子に切り替わり、ようやくアルも我に返る。
「……ま、まあ、こういうことも、たまにはあるよね……」
「ま〜な〜」
「それはいいとして……」
無理やり今のユカイすぎる映像を頭から振り払ったアルは、ふと思い出した。
「そうだ……イブ」
「ん〜?」
「おまえ、僕の携帯に勝手に曲を入れただろう」
「よーやく気付いたか〜。大変だったんだぜ〜? いちいち打ち込むの」
「……なんでそこまでしてイタズラするんだ、おまえは」
「べつに〜」
砂糖とミルクをたっぷりと入れた紅茶をすすって、あさっての方向を向くイブカ。
「まったく……」
「それより、メシ〜」
「今フィッシュ・アンド・チップス食べてるくせに……夕食には少し早いだろう?」
「オレ、育ちざかり〜」
「……イブ。僕はおまえの家政婦じゃないんだからな」
「ホゴシャだろ〜? メシも食わせてくれないなんて、ギャクタイだ〜」
「被保護者なら被保護者らしく、おとなしくしてろ!」
「善処するぜ〜」
「………………」
ちょっとでもしおらしいことを言うのも、どうせこういう食事の前だけなのだ。
(……もしかして……イブに殊勝な態度を期待する僕のほうが間違っているんだろうか……)
一般論的に言えば全面的に正しいことを考えているはずなのに、ここまで来るとそんな自分に自信がなくなってくるアレフ・ワトソン。
結局この夜も、連敗記録を更新しただけで終わったのだ。
*
そんなことを思い出してため息をつきつつちょっと居間を振り返れば、何やらよからぬことをたくらんでいそうな顔のイブカがひらひらと手を振っている。
「どーした〜? 早く行かないとチコクするぜ〜」
「……わかってるよ。じゃあ、行ってくる」
そうして一夜明けた朝。
いつも通りとはいかないまでも、定時に出勤したアルも、
ぐうたらとアルのフラットで休暇よろしく寝転がって過ごすイブカも。
今までと同じ、奇妙な共同生活、という「日常」が、たとえほんの短期間にしろ、戻ってきたことに、ほんの少し。
不可思議な喜びと安堵。
そんなものを感じていた。
作品名:Complicated GAME 作家名:物体もじ。