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唇から始まる

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「勝呂くん、今、ちょっと時間いいかな…?」

教室に残り、週番の仕事をこなしていたところに戸惑いがちにかけられた声に勝呂は驚いたように振り返った。
話しかけたのはクラスでも少し派手そうな女子生徒だった。勝呂はなにか悪いことでもしてしまっただろうか、と考えをめぐらせる。
しかし女子生徒は顔を赤らめ、ぶんぶんと手を振りながら「お、驚かせてごめん!別に怒ってるとかじゃないの!」と言うので勝呂は少し安心した。

「俺になんか用か?」

あまり話したことのない生徒だったので勝呂も戸惑ってしまい、一言しか言葉が出てこなかった。
女子生徒は一度きっと唇を結んだあと、決意したように口を開いた。

「あ!あのね!ふざけてるとか、からかってるとか、そういうんじゃなくて、あ、あたし、勝呂くんのこと好きなんだ…!」

スカートを握り締める手がふるふると小刻みに震えているのがわかった。
しかし勝呂は驚いてしまって、は?という間の抜けた声しか出ない。

「す、勝呂くんてさ、見た目そんなんだけどすごい優しくて。あたしみたいな派手な女って見た目で判断されちゃうのに勝呂くん、違った」

他の人と変わらず接してくれた、と女子生徒は赤い顔で笑った。
勝呂もよく見かけで不良だと思われがちなので女子生徒の気持ちがよくわかった、そして思い出した。
この女子生徒が周りの男子生徒から下品なことを言われていて、その男子生徒に「そういうん、やめや」と一言注意したことを。
ああ、と勝呂は合点がいった。が、告白されている自分を客観的にしか見ることが出来ていなかった。

「や、でも、俺そういうん言われても困るっていうか…、付き合えへんっていうか」

勝呂には珍しく言葉を濁し、返答をする。
すると、みるみるうちに女子生徒の目には涙の膜がはられていくのがわかった。
それを見た勝呂は慌ててしまい、がたん、と椅子から勢いよく立ち上がる。
勝呂はこういう弱い女性に対して免疫がなく、柄にもなく戸惑ってしまう。

「な、泣くなや!お前のことはええ友達やと思ってるし、これからもそうしたいと思ってんのや!」
「あたしは、勝呂くんの彼女に、なりたかった、」

涙でうるんだ声が聞こえて、勝呂はますますうろたえてしまう。
ああ、どうしたらええんや、こういうとき志摩がおったら…!と勝呂は頭を抱える。
くい、と制服の裾を引っ張られる、何事かと女子生徒のほうを向くと涙でぬれた顔でこちらを見上げていた。

「じゃ、じゃあ、一度だけ、一度だけでいいから思い出をちょうだい」

言葉の意味がわからず、勝呂は首をかしげた。
思い出?なんのことだ?と思考を逡巡させるが思い当たらない。

「言わせないでよ、一度でいいから抱きしめてキスをしてほしいの!それであきらめられると思うから…」

派手な見た目に反して純情なのだろうか、今まで以上に顔が赤かった。
勝呂も勝呂でいきなりそんなことを言われたものだから、うろたえるどころの話ではない顔を赤らめ、言葉も出ない。
懇願をされ、その上相手は泣いているというこの状況に対応する術を勝呂は持ちえているはずがなかった。
これは、腹くくるしかないんか…!と決意を固め、ぐっと顔を引き締めたとき、聞きなれた声が鼓膜を震わせた。

「ぼーんー、帰りますえー」

教室のドアに手をかけ、普段どおりの声色で話しかけてきたのは志摩だった。
勝呂は途端に安心し、気持ちが緩む。
そのときだった、柔らかい感触が唇に触れた。
女子生徒が勝呂の唇に口付けたのだ、それを見た志摩は血相を変えてこちらに近づいた。

「なにしてんねや!!見苦しいで!」

志摩は女子生徒の腕を掴み、無理やり勝呂から引き剥がした。
その表情はいつもの志摩ではなく、隠せない怒りを孕んでいた。
フェミニストの志摩しか知らない勝呂は驚いた。

「きゃっ…いたっ、なにすんのよ!」
「あんたが坊にそないなことするからやろ!ふざけるのもええ加減にし!!」
「し、志摩、そんな怒らんでも…!」

勝呂は驚きの感情しかなかったために怒る気分でもなく、志摩を制止しようとした。
しかし志摩に「坊は黙っといて!」と一蹴されてしまった、こんなことは滅多にない。

「もうええ、それで気が済んだんやったら、目の前からさっさと去り、目障りや」

低く、ひどく冷めた声色だった。

「わ、わかったわよ…!す、勝呂くん!いきなりごめんね、ありがとう。もう勝呂くんの迷惑になるようなことはしないから、本当ごめんね」

そう言って女子生徒は駆けていった。頬が涙で濡れているのがわかった。
勝呂はなんとなく申し訳なく感じ、じろりと志摩をにらむ。

「なんでにらんではるんですか?女の子とちゅーできて嬉しかったんですか?あの女の子がかわいそうですか?」

さっきと同じ声色だ、志摩が勝呂にこんな声のトーンで話すのは珍しい。
勝呂は戸惑い、今日はなんて1日なんだ、と思った。
そしてなるべく志摩の機嫌をこれ以上下降させないようにいつもより柔らかい口調で言う。

「そういうんちゃうわ。ただそないに怒らんでもええやろ、って思っただけや。というか、なんでそんな怒っとるんや?」
「別に。坊がそないに簡単にちゅーされてまうとは思いませんでしたよ。あーあ、ありえへんわ」

はあ、と志摩はため息をついた。

「坊は俺だけのもんや思ってたんですけどねえ」

志摩は両手で勝呂の頬を包み、唇を重ねた。
勝呂は驚きで目を見開いた。唇はあっさりと離され、志摩の瞳とばっちり目が合ってしまう。

「なっ…なにするんや!!あほかお前は!!」

思わず勝呂は後ずさった、背中に窓枠が当たる。
先ほどの声色とは真逆の笑みを浮かべ、志摩は言う。

「だって、俺も坊が好きなんですもん!」

あんな子には渡しませんえ、と悪戯っぽく笑った。
勝呂は自分の胸が不自然に高鳴ったのを感じたが、ぶんぶんと頭を振って、思い当たる可能性を頭の奥へ追いやった。
女子生徒とキスをしたときには感じなかったこの胸の痛みの原因に、勝呂は気付かない振りをした。


唇から始まる
作品名:唇から始まる 作家名:藤村