続合鍵問題リド編
・・・誰から訊きにいくのが、話しやすいか・・・・。
考えていたジグの部屋に、真っ赤なトサカ頭が現れた。
「邪魔、するぜ・・・」
リドはかつてないほど気まずそうな顔をしている。ということはつまり、そういうことなのだろう。
無言のリドの手からジグへ、何かが放り投げられた。それを片手でキャッチする。
見慣れた、合鍵だった。
「・・・返しとく」
「ああ・・・・」
「・・・」
「・・・」
「昨日のことは、」
しばしの沈黙の後、目線をあさっての方向へそらし、頭を引っ掻きながらリドは話し始める。
「俺は別に、悪いことしたと思ってねえからな!いつもみてえに部屋に入ってっただけだ。」
「・・・分かってる。」
「・・・たまたまいちゃついてるところに出くわすなんてよ、そんなんよくあることだよ、けど・・・・
相手が男で、あいつだなんてよ・・・ファズは、お前のダチじゃなかったのかよ!?」
「・・・友達だ」
「だったら、なんで」
「カンタレラにいたころから、俺はあいつの一番の親友で・・・それは今でも変わらない。
けど、・・・それだけじゃ足りなくなったんだ」
「・・・・!」
リドが目を見開く。
自分の正直な気持ちは、この友人にはどう思われるのだろう。
「・・・・じゃあ、あれだ。お前・・・本気なんだな」
「ああ」
「そっか・・・お前ら二人がマジなんだったら、外野がどうこういうこっちゃねえよな・・・。
ていうか、今お前、のろけたか?のろけられたのか俺は!?」
「あーあ、やってらんねー、ゴチソーサマ!どうせ俺は独り身だっつーの!!」
「・・・・・」
本気で言っているのか。いや、気を使ってくれているんだろう。そう思おう。
「まあ、今やお前らは七騎士サマだし?ごちゃごちゃいう奴もいそうで、それは気の毒だけどよ。」
「お前が黙ってさえいれば、問題ない」
「・・・本当にみんな知らねえのか?
俺は昨日まで全然だったけどよ、カンのいい奴なら気づいてるかもしんねーぞ?」
「それは・・・・」
ジグはしばし考え込む。
思い当たる節は無いが・・・・絶対に無いとも言えない。
「ふん・・・・ま、そういう場合もあるから、誰かに知られてても、俺がバラしたなんて思うなよ」
「・・・調子のいい」
「そうにらむなよ。
気楽にいけって。味方が増えたーって喜んでりゃいいじゃねえか。
「そんな風には考えられない・・・大体、
俺とファズは皆に知られるのが嫌というより、ただ・・・
ミシーに知られたくないんだ」
「そうなのか・・・?
あいつの可愛い妹だろ?お前にとっても幼なじみじゃねえか。」
「・・・だから困るんだ」
ジグの深刻な表情から、リドもなんとなく気持ちを察してくれたらしい。
「分かったよ・・・他の連中には、特にミシーには、気づかれないように注意する」
「・・・・そうしてくれ」
突然リドは何か思いついたように表情を明るくした。
「でもよジグっち!親方には!話すべきだと思わねえか!!」
「なんでそうなる!?」
勘弁してほしい、タイロンに知られたら、どれほどからかわれるか分かったものではない。
想像だけで痛み出したこめかみを手で押さえる。
「・・・世界で二番目に知られたくない相手だ・・・」
「なんでだよ、いいから親方には全部話せ! お前ら二人、どっちが上でどっちが下なのかも正確に・・・
っ痛てててピアス引っ張るな!!」
「・・・・。」
しょうもないことを言い出したリドに対して、口より先に手が出た。
「一家の一員としての義務だろーが、ついでにピンスとバッスとぐええっ!!」
黙らないリドの脇の下から腕を通して間接をきめ、ため息をつく。
リドに知られてからかわれて、恥ずかしくて面倒で気が重くなるはずなのに、逆に心が軽くなったと感じてしまうのはどういうわけだろう。
羽交い絞めになって苦しそうに呻いているリドを見下ろす。
――お前に隠し事が無くなって、ほっとしてるんだな、俺は。
「・・・ジグっち、なんか言ったか?」
「何も言ってない。忘れろ」
締め上げる腕に力が込められて、リドは真実記憶が飛ぶような思いをした。