まぁまぁ甘い
いっそすっかり晴れてくれればいいものを、初夏の陽気はもう何処かへ消えうせて今は湿度ばかりが絡みつく。これさえ越せばただ暑さえ我慢すれば良くなるが、そうなると隣のキッチンで喧しい音を立てている彼が元気になりすぎるんだろうなとまた溜息をひとつ吐く。
不快指数の高い梅雨空の下、それを考えるにはまだ気分が乗らなかった。なんであんなに元気なんだ、と恨みがましい目つきにさえなって、坊はキッチンの影になって姿は見えないが鼻唄を歌っている彼の虚像に目を細める。また何かを作っているようだが、正直あまり食欲が乗らず最近は小食気味だ。典型的な夏ばて──なんだろう。
ほどなく、いつの間にやら八つ当たり対象にされているその彼がキッチンから姿を現した。鼻唄はもう止んでいたけれど、どうもご機嫌は上々らしい。手にはトレイ、その上には大グラスにうすピンク色のスムージーみたいなものが乗っかっている。
さっきキッチンからミキサーの喧しい音がしていたから、これを作ったということなんだろう。あまり優しくはない目線を向けられていることに気付いたのか、彼は小さく首を傾げながら坊の前の椅子に腰掛けた。
「どうかした、坊?」
「…何でも。ていうか、それ、なに?」
スムージー、というにはグラスの中身は柔らかそうだった。ミキサーを使っていたし、ミックスジュースの類なんだろうが、何を混ぜたのだろう。
冷えているらしいグラスの表面には、みるみるうちに水滴がぽつぽつと姿を現している。うざったい気候なので、冷たいものは大歓迎だった。やや機嫌を直した坊に、それを作った彼は小さく笑うとグラスをひょいと持ち上げた。
え、と思うのも束の間、痛いくらいの冷感が額に触れる。驚いてぽかんとした坊の顔を見て、悪戯の張本人は至極楽しそうに声を上げて笑った。
「まあ、何を隠すわけでもなくミックスジュースだけどね。トマトをベースに、氷とバナナと蜂蜜をちょっと入れてみたよ。カロリーしっかり、ビタミンも取れます。バテてるみたいだったから」
芝居がかった口調で言いながら、彼はトレイに載せて来たストローを指で摘んできゅっと曲げた。それから、それを坊の目の前へひょいと差し出すと、どうぞ、とにっこり笑う。
「……──────!!」
額を押さえながら言葉もなく眉を上げて、坊は彼からストローをひったくった。それからせめてもの勢いでぶすりと(抵抗なんてまったくないが、)グラスに突き刺して、吸い上げる。
ピンクの色合いやバナナ、蜂蜜といったものの印象とは違って、すっと喉を通ったものは思ったよりもさっぱり美味しかった。ほのかにのこった酸味やミキサーで細かく砕かれた氷がキンキンに冷えていて、一気に身体のほてりが取れる。
不貞腐れていた表情が急激に素に戻ったのを見たのか、正面の彼は嬉しそうに口元を上げて笑った。
「美味しい?もっと蜂蜜入れてもよかったかな」
小食が続いていたことに心配をかけたのだろう。知恵を絞って作られたグラスの中身を掻き混ぜながら坊は一度だけ唸ると、観念したように頷いた。
---------------------------
なんとなく現代版っぽいなあ…
お誕生日おめでとうございまああああああす!!!!!!
*題はLEGO様(http://ahwbitterly.fool.jp)から拝借