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悪魔は自分だ

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見られてしまった、勝呂は罪悪感にとらわれた。
もうそんな心配をする必要はないのに。

「な、なにしてはるん…」

志摩はその場に呆然と立ち竦み、柔造と勝呂を交互に見やる。
柔造は一度志摩と目を合わせたものの、二度目を合わせることはなかった。
勝呂も勝呂でどういう顔をしたらいいのかわからずうつむくことしかできない。

「坊も柔兄もなんか言うてくださいよ。なにを、なにをしてはったんですか!!」

志摩が声を荒げ、柔造に詰め寄る。
それでも柔造の表情は全くと言っていいほど変わらなかった。
そして小さく「あほやなあ、」と呟いた。

「はあ…!?ふざけんのもええ加減にせえよ!」

詰め寄った勢いそのままで志摩は柔造の胸倉を掴む。
勝呂もたまらず志摩を制止しようとした。が、柔造に視線でやめろ、と言われた気がして行き場のない手を彷徨わせる。
柔造は何も言わず志摩を見つめる、なにか言いたげな瞳である。

「廉造、離し。もうお前には関係あらへんやろ」

淡々とした波のない声色で柔造は話す。
志摩はぎりっと歯を軋ませる。反論出来ないことをわかっているからだった。
そして柔造は志摩の目の前で勝呂の額と頬をいとおしげに撫ぜた。
勝呂もそれはなんだか自分が喧嘩の燃料にされているような気がして柔造の手をうっとおしげに払った。
柔造は一瞬目を見開いたが、すぐに目を優しく細める。

「そや、坊。坊自身がどうしたいんか聞きましょか?」

勝呂は驚き、ずるい男だ、と思った。
答えなんて決まっているのに、口がからからだ、喉が渇く。
柔造は聞きたいのだ、勝呂自身の口から別れの言葉を。
勝呂の重い口が開く。

「俺は…、もう、お前とは終わりにしたい」

その言葉は重く、深く、志摩の心に突き刺さった。
志摩の喉がひゅうひゅう音を立てた。

「は、」
「さっきも言うたやろ、その匂いもなにもかも嫌なんや。それに我慢できひん自分も嫌なんや」

志摩の顔が悲しげに歪む。
見ていられなかった、自分はここからもう立ち去ろうと思い、勝呂は立ち上がろうとした。
しかし、それより先に志摩が足早に部屋を出て行ったので勝呂はなんとなく気まずく、視線を畳に向けた。

「坊のその言葉、聞きたかったんですえ」

耳元でささやかれる。それだけでぞわりと背筋になんともいえない感覚が走る。
勝呂はそういうつもりで言ったわけじゃない、と反論するが、柔造にはちっとも堪えない。

「こんなことになるならお前に相談せんかったらよかった…」

苦々しげに勝呂は呟いた。
それを敏感に聞き取ると柔造は今まで以上に優しく、にこやかに言った。

「ぜーんぶ柔造が悪いんです、坊はちっとも悪くありません」

そう言ってまた耳を食もうとするものだから勝呂は身を捩ってそれを避け、おもむろに立ち上がる。

「そうや!お前が悪いんやからな、知らん、もう俺は部屋に戻る」

部屋を出て行く勝呂の耳が赤いのがわかり、柔造は満足気に笑った。
そして自分の心が今までにないほど満たされていることに気付き、まだまだ俺も若いんやなあ、と実感した。


もう、なんなんや、志摩も柔造も!自分をなんだと思っているのか!
先ほどの甘い空気はそのまま体に纏わり付いたままなのだが勝呂の思考は怒りの方向にシフトしてきていた。
なんでこうも志摩兄弟に翻弄されなければならないのか、それが不思議でならなかった。
さっさと明日の予習を終わらせて寝てしまおう、それがいい、勝呂は思った。


柔造はしばらくそのまま考えにふけっていたが、何かを思いついたようでふらりと部屋を出た。
向かう先は志摩の部屋だ。
そして志摩の部屋の前に着くと襖は開けないまま話し始める。
「廉造、こうなったんは全部お前のせいやで。お前が自分のものや思って安心してたんかどうかは知らんけど
そんなふらふらしてたらこうなるのは目に見えてたはずや。俺は年も離れてるし干渉するんはやめとこ思ってた。
おもろいなあ、こんな結果になるなんてなあ。やから、今更後悔しても遅いわ、ガキが。」
そう言い切ると柔造は通ってきた廊下を戻った。


さっき吐き捨てられるように言われた言葉が痛い。
しかし言う通りだ、自分はまだまだ青臭く、こうなることを予想できていなかったのだ、と志摩は思った。
勝呂は自分のことが好きで、許してくれると思っていた。
女性に手を出していたのは、なんとなく勝呂には触れていけない気がして溜まってしまっていた熱を吐き出していたからだった。
それにしても兄に横から取られてしまうとは考えておらず、悔しさや様々な感情が混ざり、喉の奥がぎゅっと締まるような痛みを感じた。
もう志摩にはどうしようも出来ない。
これから笑って勝呂と話せるだろうか、それだけが気がかりに思えた。


「坊、」

澄んだ声が勝呂を呼ぶ。
そして返答を聞かないまま腕の中に勝呂を閉じ込めた。

「ゆっくりでええから、俺の匂いに慣れていってくださいね」

柔造からは嗅ぎ慣れない香の匂いがした。


(悪魔は自分だ)

作品名:悪魔は自分だ 作家名:藤村