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黒猫刑部(のお世話係)
黒猫刑部(のお世話係)
novelistID. 27943
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【02】 ひとつ。ふたつ。 【三吉三】

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 ひとつ。ふたつ。

 後悔が積み上がる。

 ひとつ。ふたつ。

 賽の河原で童が小石を積み上げるように。

 正しい事をしている筈だった。

 なのに失う。ひとつ。ふたつ。

 正しい事をしていた筈だったのに。

 だけど失う。ひとつ。ふたつ。

 鬼が、積み上げた石を打ち崩す。

 しかし石はなくならない。後悔は一つも無くならない。

 辺りに散らばったそれらを、また拾う。ひとつ。ふたつ。

 ……どうか、私を狂わせてくれ。

 そんな浅ましい望みを打ち消すように、後ろから。

 ぎゅ、と誰かに抱きしめられた。

 小さな手。小さなからだ。……いや、自分より一回りだけ、大きい?

「佐吉、悔いるな」

 幼いけれど、確かに懐かしい声。

「われは悔いてはおらぬゆえ」

 ……なんて都合のいい夢。

 振り向けない。肩から包み込まれるように回された温かいそれに、触れる事も出来ない。

 けれど言葉を返す事は出来た。

「私は悔いている」

 腕に、優しく力が篭もる。

「ずっと悔いていた。今度も悔いている。何故私は」

「悔いるな。佐吉よ」

 遮るように、彼は言った。そして繰り返した。

「われは悔いておらぬゆえに」

 たまらなくなって、三成は―佐吉は振り返った。友の顔を今一度見たかった。どんな顔でそれを言ってくれているのか、確かめたい弱さがあった。

「……桂松?」

 そこには、誰もいなかった。

 ぬくもりだけが、その感触だけが、この身に残った。

 ……夢なのに?

「桂松……いくな……」

 友の居た筈の場所に手を伸ばす。

「私を連れていけ。私の傍にいろ。私から離れるな!」

 頼むから。

 常なら口にせぬ懇願を、幼い声で口にした。

 願いは届いたのか、手に温かなものが触れた。

 必死に掴む。目に見えぬそれは、間違いようもなく、かの友の手だ。

 佐吉の頬が緩んだ。

 一緒にいてくれるのか、桂松。

 泣きたいほどに、嬉しかった。






 黒猫は、三成に捕まってしまった自らの尻尾をじっと見つめていた。

「やれやれよ。指しゃぶりの抜けぬ赤子でもあるまいし、なァ」

 先ほどまでとはうって変わって穏やかになった三成の寝顔に視線を移す。

「……そうよな。われはここにおるゆえ、心安らかに眠るがよいぞ、三成」

 黒猫は尾が彼の手の中から離れてしまわぬよう慎重に、彼の傍らに蹲った。