あたたかい手
あったかい…。
面倒な仕事が一つ片付き三日ぶりに睡眠を取ろうとすると、思った以上に疲れが溜まっていたらしく寝室に行くのすら面倒になり事務所のソファーへ横になるとあっという間に意識を手放した。
出来る事なら愛しいあの子が夢に出てくるように願いながら。
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意識を手放してからどれだけ時間がたったのか分からないが、ふと頭を撫でられる感覚に僅かに意識が浮上した。
優しく温かい手が何度も髪を梳くように撫でる。
「みか、ど…くん…?」
事務所に入れる人間で俺の頭を撫でるなんて行為をするのは一人しか思い浮かばず、寝起きの僅かに掠れてしまった声で愛しいあの子の名前を呼ぶ。
するとあの子が微笑んだのが気配だけで分かる(頭を撫でる手が心地良くて、目が開けられないのが勿体無い)(だってあの子は今きっと、とっても優しく微笑んで居るだろうから)
「起こしちゃいましたか?」
そう問い掛けながらも頭を撫でる手は止まらないのが、何故かとても嬉しかった。
「ううん…あったかくて、きもちいいよ…」
心地良さのせいで、僅かに舌っ足らずな言葉になりながらも返事をするとまたあの子が微笑んだ気配を感じた。
あの子の微笑んだ表情が見たくて、頑張って重たい瞼を少し開けるとそこには思った通り、優しく微笑んだあの子が居た。
「こんな所で寝てると風邪ひきますよ?」
「うん…」
「仕事、忙しかったんですか?」
「ん…三日、寝れなかった…」
「またそんな無茶して…」
僅かに苦笑を浮かべるあの子に、同じような苦笑を返す。
頭を撫でて居た手がスルリと頬へ下ろされ、目元を指先で撫でられる。
優しく撫でる指先に擽ったさを感じ、小さく肩を竦めるとあの子がクスクスと可愛らしい笑い声を上げた。
「まだ寝てていいですよ。ご飯作りますから、出来たら起こします。」
「うん…でも、もう少し…頭、撫でてくれない…?」
あの子の言葉に頷きながらも、素直に強請ると再び優しく温かい手に頭を撫でられる。
その温かさが嬉しく、重たくなった瞼を閉じた。
「おやすみなさい、臨也さん」
意識を手放す前に聞こえたあの子の優しい声に、泣きたくなる程の幸せを感じた。