慣れ合いスキンシップ
その中で、眼鏡を掛け詰襟を着た男子高校生と特徴的なヘアピンで髪を留めるブレザーを来た女子高生が、子供一人分程の距離を開けながらも肩を並べて歩いていた。
見る者によってはその距離感は、適度な立ち位置を覚え始めた恋人達にも互いに一方通行の恋愛感情を意識する男女にも見える。
男女は取り留めの無い会話をしていたがややあって、ふと訪れた沈黙との境目で話題を見つけあぐねていた。
「伊波さん、手を繋ぎませんか?」
「え、ええぇっと」
「男嫌いを治す為の訓練ですよ。最近はマジックハンドも使っていないですし、殴ったり気を失ったりしていないじゃないですか」
「そうだね。うん、小鳥遊君がそう言ってくれるなら頑張ってみる」
男は本来の意図を思い出したかのように提案をした。あくまでこれは訓練だと言い聞かせながら。
女は最初、唐突な申し出に我を失い声を上げてしまいそうになるが、すぐに続いた男の言葉で自己を強く保ち、その信頼に足る。
「準備はいいですか?」
「う、うん……」
何事もないといった体の男と緊張の色を隠せない女。
ただ手を繋ぐ、それだけの事がこの若き男女にとってはこれからの人生を決定づけてしまうかのような重大なものなのかもしれない。
女は躊躇いを含みながらも男からの提案が満更でもないらしく。証拠に頬を緩ませ、えへへと言葉を漏らしている。
男は提案が受け入れられた事に安堵した風で。証拠に頬の朱を気取られぬよう平生を装っている。
「意外に繋げましたね。自分で言っておいて、殴られると思っていました」
「そうだけど……でもすっごく緊張してるよ。手、熱く……ない?」
「熱いですよ。ですが訓練に付き合うのならこれくらいは我慢するのが覚悟ってやつですから」
建前を並べ立て自身の心内の感情に気づかぬように。コンプレックスを楯に自身の感情を気づかれてしまわぬように。
「これ以上遅くならないうちに急ぎましょう」
「う、うん。そうだね」
急いで、この時間が長くは続かない事を知り名残り惜しく思うは女。この時間が短くとも続く事を確信し愛おしく思うは男。
街灯、生活灯、自販機の照明、時折通り掛かる車のヘッドライト、月灯り。
それらに照らされて伸びる二つの影は昨日までよりも近く、それぞれの右腕と左腕が重なるように融け合っていて。
二人を繋ぐ指の絡まりが尚一層の事その影を一つにしようとしていた。
作品名:慣れ合いスキンシップ 作家名:ひさと翼