惚れた弱み
負け惜しみ?
いやいや、ただの意地っ張り。
――――――――
「臨也さん…何ですか、この手は。」
「……。」
もうすぐ8月になる今の時期の僕の部屋で、いくら日が落ちて涼しくなってきた時間帯であろうとこうもベッタリとくっつかれるのはあまり歓迎できる状況ではない。(僕の部屋にクーラーなんて贅沢品はないのだから)
背中からお腹に手を回しぎゅーっと抱き付いてくる臨也さんなんて、臨也さん信者の方は想像できないだろう。(しかし悲しいかな、これが現実です)
「あの…暑いから離れてもらえませんか。」
「嫌だ。」
人が優しく言ってるのに、この23歳児は離れる気がさらさらないようだ。
それどころか、お腹に回した手に力を込めてさらに密着度を増してくる。
「もう、暑いって言ってるじゃないですか…」
「…帝人くん冷たい。」
「そんな事ない…っ…んん!?」
我慢の限界に達して後ろに振り返り文句を言おうとすると、文句を言うよりも先にキスをされた。
触れるだけのキスを何度も何度も繰り返す。
「…っ、やめてくださいっ」
「…まだ、足りないからダメ。」
「っ!!ふざけっ…んぅ…っ」
不覚にもまたキスを許してしまい、臨也さんに対する文句を再び言いそびれた。
今度のキスはさっきのキスとは違い、臨也さんの舌に唇を舐められる。
舐めるだけでは飽きたらず、吸い付いたり甘噛みしたり、終いには唇から舌を口の中にねじ込んできた。
「…い、ざやさん!本当にやめてくださいっ!」
「っ…、ヒドいよ帝人くん。」
これ以上はダメだと思い思い切り突き飛ばすと、恨めしそうに睨んでくる臨也さんと目が合う。
しかし、次の瞬間その目に僕は捕まった。
臨也さんが僕を欲しがっている瞳。
恥ずかしくなるくらい僕を欲しがっている、欲望の渦巻くあの瞳。
そんな瞳で見られると、僕は嬉しくてしょうがなくなる。
臨也さんが僕を欲しがっている。
好きな人に求められて、嬉しくないわけがない。
だから僕はその瞳を見ると何もできなくなる。
「っ、…夜ごはんの準備…しないと…っ」
「そんなの後でいいよ…。」
「っ…んっ」
最後の悪足掻きで些細な抵抗を試みるが、それが成功したことなんて今まで一度もない。
今だってそうだ。身体を抱き込み噛み付くようにキスをしてくる臨也さんを、結局は受け入れてる。
きっとあの瞳に見つめられる限り、僕はこの人を受け入れてしまうんだろう。
(そのくらいあなたが好きなんですよ)(絶対永遠に言わないけど!)