慣れ
「銀さん。」
三時のお茶を飲み終えいつも通りジャンプを顔の上に乗せ、ソファーで寝そべる銀時の耳に新八の声が聞こえる。
小さめに呼ばれる声に、銀時は新八が自分を寝ていると勘違いしているのに気付くも、面倒なので敢えて返事をしなかった。
すると、パタパタと新八が遠ざかっていく足音が聞こえ、銀時は自分が寝たふりをしたのにも関わらず離れて行く足音を寂しく感じた。
隣りの和室から新八の動く気配を感じながら銀時が寝たふりを続けていると、新八が和室から戻り銀時の体に毛布が掛けられる。
「まったく、こんな所で寝たら風邪ひいちゃいますよ…」
新八はブツブツ言いながらも銀時の肩まで毛布を掛け、顔の上のジャンプを取った。
突然の事に動揺するも、それを顔には出さず銀時はそのまま寝たふりを続ける。
新八が銀時の事務所に来てから、銀時は度々このように不意に新八の何気ない優しさを感じることがあった。
そういう優しさに慣れていない銀時は、その度に密かに動揺している。それは銀時だけではなく、神楽にも言えることだった。
神楽の場合は子どものせいもありすぐに顔に出してしまい、銀時は新八に自分は神楽に嫌われているのだろうか、と何度か相談を受けていた。
銀時も神楽も今まで生きてきた中で、他人の優しさに触れることあまりがなかった為、新八のちょっとした優しい行動に敏感に反応してしまう。
最近はだいぶ慣れ始め、大抵のことでは動揺しなくなったが、先ほどのような不意な行動はやはりまだ動揺してしまう。
毛布を掛け終えた新八はジャンプをテーブルの上に置き、そのまま台所に向かい夕飯の支度をし始めた。
台所から聞こえる冷蔵庫を開ける音や包丁が野菜を切る音。それを聞きながら銀時は、いつか自分もこの何気ない優しさに慣れ、動揺しなくなる日が来るのだろうかと思うとなんだか胸が擽ったいような優しい気持ちになった。
そんな優しい気持ちになると段々と睡魔が脳内を侵食し始め、ご飯の時間だと起こしに来た神楽の強烈なパンチを受けるまで心地良い眠りについたのだ。