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ユリフレと薬とパティ

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死んでるのかと思った。

バウルでの船旅は特に警戒すべき事もないので、目的地に着くまでまだ時間がかかると聞いたユーリは暇を持て余し、昼寝でもしようかと船室に降りたそこでの事である。
フレンが倒れていた。ベッドに辛うじて頭をのせて、突っ伏した状態だったから思わずそんな単語が頭を過って、ユーリはびくりと肩を震わせてしまった。
だが近づいてよくよく観察してみると静かな寝息が聞こえてきたので驚かせやがって、と呟いてユーリは嘆息した。余程眠かったのか、フレンは鎧を無造作に床に転がせたままで(普段のフレンならありえない)、しかもまだ鎧を全て外せていなかった。

ユーリはフレンの残りの鎧やらをさっさと剥ぐと、適当にまとめてフレンを布団に押しこんだ。手近にあった椅子を引っ張ってくると、座ってユーリは一息ついた。改めて見下ろす騎士団長代理の寝顔は、同い年のくせにやたら幼い。静かに寝ていたと思ったら突然ふにふにと眉をしかめて、寝心地の良い体勢になろうともぞもぞ動く。その動作がまた子供のようで、ユーリの口元が無意識に綻ぶ。自然とその髪に触れようと手が伸びたが、触れる寸前でユーリは引っ込めた。とんとん、と軽い足音が接近してきたからだ。
豪快な音を立てて扉が開くと、ユーリの背にぼすんと衝撃が走る。背後から抱きつかれた。
「ユーリ! ここにおったのか」
「見張りはいいのか、船長」
「うむ。少し休憩なのじゃ」
 暫くはぐはぐと堪能するようにユーリに抱きついていたパティだったが、む、とベッドで眠るフレンに気がついて身体を離した。
「フレン、寝ておるのか」
「起こすなよ」
 と言っても一連のパティの物音にもぴくりともしなかったのだから、フレンの眠りは相当深いようだ。
「アレを使ったようじゃの」
「……なんだアレって」
 フレンの寝顔をまじまじと見つめていたパティがぽつりと漏らした単語が気になって、ユーリは尋ねる。
「最近あまり眠れていないと言ってたから、勧めてあげたのじゃ」
 じゃん、と自前の効果音付きでパティが懐から小瓶を取り出す。
「一粒で即座に安らかな眠りへ誘う、ヨクネムレ~ル、なのじゃ!」
「なんだそのクソ怪しい薬は」
「名前の通りただの睡眠薬じゃぞ?」
 ”ただの”睡眠薬にしてはキャッチフレーズと名前から危険な雰囲気が漂う。しかし、薬の名前に気を取られてしまったが、フレンが最近睡眠不足だったのは初耳だ。己の洞察不足に苛立ったが、怪しい薬に頼ったフレンにも腹が立って、意味は無いと分かっていてもユーリはフレンの寝顔を睨んだ。
「その薬、副作用とかねーんだろうな」
「ふむ。まれに頭痛・発熱・倦怠感、さらにまれに催淫効果…があるそうじゃ」 
 名前の通りやっぱり如何わしかった。ひくりとユーリの口元が歪む。
「……おい、ただの睡眠薬じゃなかったのか?」
「偶然効果があったのか、最初からそっち目的で作っていたのか…どっちじゃろうな」
 楽しそうに笑うパティに、ユーリは不覚にも彼女の真意を図りかねた。
作品名:ユリフレと薬とパティ 作家名:くまつぐ