お風呂
「あら、新ちゃん。痣ができてるわ。」
姉上の前に膝立ちになり目に入らないように髪にシャンプーをしてあげていると、姉上は僕の左の鎖骨の下あたりを撫でながら囁いた。
「え?あぁ、昨日神楽ちゃんにやられちゃったんです。」
「そう。神楽ちゃんも顔は可愛いんだから、もう少しおしとやかにしていればいいのに。」
「おしとやかな神楽ちゃんなんて、神楽ちゃんじゃないですよ。」
「それもそうね。」
そう言うと僕らは顔を見合せてクスクス笑った。
僕らはたまにこうして一緒にお風呂に入る。
と言っても最近は姉上も仕事があったり、僕も万事屋に行っていたりでひと月振り位に一緒に入った。
「姉上、髪伸びましたね。」
「そうかしら。じゃあまた新ちゃんに切ってもらわなきゃね。」
「ふふ、任せて下さい。」
シャンプーを終えると、次はコンディショナー。
丁寧に、何度も髪に馴染ませるようにして姉上の髪をきれいにしていく。
姉上の髪はいつ見てもきれいだ。
そのきれいな髪に鋏を入れられるのは、この世で僕だけ。姉上は髪が伸びるといつも僕に『新ちゃん切ってくれるかしら?』なんて言いながら鋏を渡してくる。
最初は美容院代を節約しているんだと思っていた。
でも、ある時呟かれた言葉に僕はどうしようもなく嬉しくなった。
『新ちゃんに髪の毛を触られていると、なんだか安心するわ。』
それ以来姉上の髪は僕が、僕の髪は姉上が切ることになった。
僕だって、知らない人に触られるより姉上に触られる方がいいから。
「明日は一緒に髪を切りましょうか。」
「僕もですか?」
「えぇ、だって新ちゃんもだいぶ髪伸びてるわよ。」
そう言って僕の頭を撫でる姉上の手がなんだか擽ったく感じ、僕は小さく笑いながら肩を竦めてしまう。
「じゃあ、明日は万事屋お休みしますね。」
「ふふ、万事屋は毎日お休みのようなものじゃない。」
「うっ、それはそうなんですけど…。」
「明日は私もお店お休みにしてもらおうかしら。」
「本当ですか?そしたら、明日は一日中一緒に居られますね。」
明日は一日姉上と一緒に居られる…。
なんだか今から楽しみになってしまう。
姉上も同じ気持ちなのか、とってもきれいで僕の大好きな笑顔を浮かべている。
「どうせなら、今日お布団一緒にして寝ましょうか。」
「ふふ、一緒に寝るの久しぶりですね。」
「最近新ちゃん不足だから、今日と明日で沢山充電したいわ。」
「僕も姉上不足だから、たーくさん充電したいです。」
コンディショナーが終わると、姉上の髪はますますきれいになった。
次はお互いに背中の流しあいっこ。
姉上の背中は白くてきれいだ、と言うと新ちゃんも一緒よ。と言われるけど、絶対に姉上のきれいな背中と僕の背中が一緒な訳ない。
「あ、ねぇ、姉上。この間、銀さんに十六にもなって姉上と一緒にお風呂入るのはおかしい、って言われたんですけど、やっぱりおかしいんですかね?」
「おかしくなんかないわ。姉弟でお風呂に入るなんて当たり前の事よ」
「でも、銀さんがシスコンにもほどがあるだろうって…」
「銀さんの言う事なんて聞く必要ないわ。それに私だって新ちゃんが大好きでブラコンなんだから、なんの問題もないじゃない。新ちゃんは私が大好きで、私は新ちゃんが大好き。それでいいの。銀さんなんて関係ないのよ。」
ね?と言われれば、確かに銀さんの言う事なんて気にしなくていいと思えた。
やっぱり、僕の中で一番なのは姉上なんだ。
背中の流しあいっこが終わると、僕たちは一緒に脱衣所に出る。
向き合ってお互いに体を拭きあいっこしていると姉上は微笑んでいた。
「ふふ、新ちゃんの中では私がまだ一番なのね。」
「当たり前じゃないですか。姉上はいつまでも僕の一番ですよ。」
そう言うと、姉上はいつもよりももっときれいに微笑みながら唇にキスをしてくれた。