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【6/12サンプル】ベストコラボレーション【臨帝】

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各部抜粋


「波江さん、ハイこれ」
胡散臭い笑顔を浮かべてCDを差し出してくる男を、矢霧波江はじろりと睨んだ。彼女のこの不機嫌さを包み隠さない冷たい表情に震えあがる男性は非常に多い。だが男は笑顔を崩すことなくデスクの上にCDを置いた。
「君の秘蔵っ子に渡してよ」
「……秘蔵っ子って、一体誰のことを言っているのかしら」
「しらばっくれても無駄。波江さんが渡してくれないなら俺がいつものように直接渡すだけさ。愛する弟くんがスカウトしてきたあの少年に」
「………………」
眉間の皺をさらに深くして、波江はそのCDを渋々受け取る。わざわざ弟を引き合いに出してくるところが憎々しい。
「なるべく早く渡してね。でないと我慢出来なくなって、俺自ら彼のところに出向いちゃうかも」
「……学校が終わったら来るように連絡するわ」
波江はこめかみに指を当てて深々とため息をついた。

「用が済んだのならとっととこの建物から出て行きなさい、折原臨也」





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「新曲のデモテープを早く渡したかったの」
おや、と目を瞠っていたらCDを手渡された。ケースの中に入ったディスクの表面には流暢な英字が書かれている。これは曲のタイトルだろうか。帝人は無意識にそれを口に出して読んでいた。
「サイケデリックドリームス……?」
「それが曲を作った奴の名前よ」
「え! ? あ、曲のタイトルかと思いました……ってあれ? この人かなり有名な方じゃ……?」
サイケデリックドリームスという奇天烈な名前の人物は数年前から活動を始めた作曲家であり編曲家だ。実力派シンガーからアイドル歌手にまで幅広く曲を提供している。王道を走りつつも独特なサウンドは絶大な人気があり、去年の売上ベスト10の内、四曲がサイケデリックドリームスの作曲したものだった。
(何でそんな人が僕に曲を……?)
「仮歌はなしでメロディもピアノで入っているわ。もし作詞出来るようなら詞をつけてもいいよ、だそうよ」
「はあ……あの、とりあえず聴いてみていいですか?」
波江は無言で頷いた。
帝人は鞄からプレーヤーを取り出して早速そのデモテープを再生する。
「―― ! !」
(――なにこれ……)
最初の十秒だけで、帝人はその曲に引き込まれた。聴覚から得る情報以外のすべてがシャットアウトする。鼓膜を震わすピアノの旋律は帝人の身体全体をも震わせた。メロディがサビ部分に入った瞬間、ぞくぞくと背筋を何かが走り抜ける。胸の鼓動が徐々に速くなり、頭に血がのぼって顔が熱くなった。予測できない音の洪水に帝人の口から感嘆のため息がこぼれる。
コード進行は突飛な訳ではないのだが、メロディは複雑の一言に尽きる。これを完璧に歌うのは難しいということは誰が聴いても明らかな曲だった。
難しい。
そう思いながらも帝人は笑った。この一癖も二癖もある難しい曲を歌いこなせたなら、きっとびっくりする程に気持ち良いのだろうと思うと、自然と顔が笑っていたのだ。本人にその自覚はないまま、曲を聴いている間中ずっと帝人は笑顔を浮かべていた。



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「あんた信じられる? あの曲を最後まで聴いても、あの子笑ったままだったのよ」
「知ってる」
くつくつと笑い声を洩らす臨也に波江は怪訝な表情を浮かべ、睨む。
「見てたからね」
臨也はそう言って窓の向こうに見える向かいのビルを指さした。
今度から帝人をこの部屋に通す際は窓に背を向けて座るように勧めようと波江は心に誓う。もちろんブラインドもしっかり下す。
「いやあ、あの子はいいね! 久々に楽しめそうだ!」
心底楽しそうな様子の臨也を見て、波江は思いきり顔を顰めた。



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「新曲?」
「そう。先週デモテープ貰ったんだけど、この曲がすごく面白くて!」
昼休み、生徒で賑わっている屋上で、帝人は小声で叫ぶという器用なことをやってのけた。満面の笑みで曲の素晴らしさを説明し出した帝人を正臣と杏里は微笑ましそうに見つめる。はしゃぐ子どもを見守るお父さんとお母さんのようだったが、はしゃいでいる本人はそのことに気づいていない。
「すっごく難しい分、歌えた時すっごく気持ち良いんだ。本当に歌うのが楽しい」
「そっか。俺たちも聴けるの楽しみに待ってるよ」
「うん。期待してて」
 それに凄いんだよ、と帝人はふたりの耳に口を寄せる。
「あのサイケデリックドリームスの曲なんだ」
言った途端、ふたりの顔色が変わった。良いほうにではない。悪いほうにだ。予想外の反応に帝人は目を丸くした。てっきり喜んでくれると思ったのに、正臣も杏里も浮かない顔をしている。
「……帝人、お前大丈夫なのか?」
「何が?」
「その人に関して、あんまり良い噂聞かないからさ……ちょっと心配で」
「私も知り合いからその人のこと聞いたことがあります。やっぱり良い話ではありませんでした」
「え、そうなの?」
「歌手目指してる奴とかに難しい曲ぶつけて、相手が苦悩してる様子を楽しんでるとかどうとか」
「何それ」
「まあ帝人はプロだから大丈夫だろうとは思うけど、油断はするなよ。何かあったら矢霧の姉さんに泣きつけ」
「私にも言ってください。知り合いに何とかしてもらいますから」
大袈裟だと言って笑いたかったのだが、ふたりの深刻な様子を見てやめた。本気で心配されているのに冗談で流すことなど出来ない。
「ふたりともありがとう。まったく関わらないって訳にはいかないけど、気をつけることにするよ」
帝人がそう言ってもふたりは不安そうな表情を浮かべていた。