始まりの夜。
考えている。ずっと。
夜のグラウンドに一人。
自主練の習慣は身に付いたまま。ボールを蹴って。
そこに、蹴り入れられたボールが一つ。
「楽しそうな事やってんじゃねえか椿」
「…赤崎さん」
ひとしきりボールを蹴り合って。
練習もしているし、試合にだって使ってもらってる。
でも。それでも楽しくて。
「椿、お前どの試合でもそれくらいやれよな」
「え、あ、す、すみません…!」
自分でも、それは分かっているのだけれど。
なかなかいつもという風には出来なくて。
一人、頭を抱えているうちに。目の前に、赤崎さんの顔。
試合中には珍しくもない距離だけれど。
それよりも、近い距離。
え…?
「あんまり、そんな顔してんじゃねぇよ。……いじめたくなんだろ」
ひらりと手を振って戻って行く。
そんな顔ってどんな顔だ、とか。いじめたくなるって何、とか。
色々あるのだけれど。
…今の、何だった?
思わず唇に触れる。
一瞬の事だったけれど。
いやでもおかしいから!
気のせい、だと思う。
けれど。
さっきの赤崎さんの顔が焼き付いている。
部屋までゆっくりと歩いて戻る。
さっきの椿の顔を思い出して笑いそうになるけれど。
俺が悩んで考えた分だけ、お前も俺の事考えろよ。