君がくれたもの
『このバカ野郎! なんであんなどっかの国のヤツらなんかに負けてやがんだよ!』
まだ覚醒しきっていないヒロトの頭に、南雲の怒鳴り声がぐわんぐわんと響いた。人生で一、二を争う最悪の目覚めかもしれない。
「……南雲、いま何時だと思ってるんだ?」
『ああ? 負けちまって、頭までやられたのか? 夜の九時に決まってるだろ!』
携帯電話の向こうから、『それは日本時間だ。いま、向こうは深夜二時だぞ』と、涼野の涼しい声がかすかに聞こえた。
『……時間なんてどうでもいい! てめぇ、俺らに勝っておきながら他のヤツらに負けちまったら、俺らまでそいつらに負けたようなもんじゃねぇか!』
南雲の理にかなっているような、ないような論を右から左に聞き流す。
「ああ、悪かったよ。次は負けないから」
素直に謝罪すると、南雲は面食らったのか言葉を濁した。
『お、おう。わかればいいんだよ、わかれば! 次は勝てよ! 負けやがったら、もう日本に帰ってくんな!』
無茶苦茶な要求を捨て台詞にして、南雲は涼野に電話を代わった。
『夜分にすまないな』
「まったくだよ……」
『今日の試合を見て、南雲のやつ、興奮して怒ってわめき散らして大泣きして、いまさっきようやく落ち着いたんだ。そうしたら、今度は君に文句を言わないと気が済まないと騒ぎだして、あまりにうるさくてな』
電話口の向こうから南雲がなにやら叫んでいたが、聞き取る気力はもうヒロトにはなかった。
『試合、残念だったな』
「……まあね。でも、次はないさ。俺たちは必ず勝って、優勝するよ」
自分でも驚くほどに強い決意が体の底から湧き上がり、胸いっぱいにあふれていた。
『……思ったよりも元気そうだな。悔しがって怒る君の声が聞けると思ったのに、残念だ』
「それは、お生憎様だったね」
『まあ、それだけ覚悟が決まっているなら安心したよ。次の試合も楽しみにしてるよ。お土産もよろしく。じゃあ、おやすみ』
南雲も涼野も言いたいことを言うだけ言って、あっさりと電話を終えた。相変わらずの二人に、ヒロトは笑いを抑えきれなかった。
自分の周りのたくさんの大切な人たちから、こんなにも期待されている。これほど力の源になるものが、他になにがあるというのだろう。