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今更バレンタインネタ

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 その日は朝からユベルの期限が良くなかったように思う。
 行き先の決まっていない旅の途中。ふらりと立ち寄った町の一角で、カードのポスターを見かけた気がした。慌てて周りを見渡したもののどこにあるのか分からず、斜め上に視線を向ける。周りの人間には見えないだろうが、そこには腕を組んだ精霊が浮かんでいた。
「確かこのへんだったよな?」
『……』
 答えは無言。この距離だし、聞こえていないはずはないのだけど。
「だよな、ユベル?」
『……あっちに看板があるよ』
「あ、ほんとだ」
 指先だけで示された方を見れば、気付かなかったのが不思議なくらい大きな看板。少し照れ笑いをして、礼を言う。
「サンキュ」
『……さっさと行けば』
「ああ」
 いつもよりユベルの声が低いように思ったけど、その時はカードの方に注意が向かってしまっていた。



「――いやあ、つい買い込んじまったな。まさか絶版のパック売ってるとは思わなかったぜ」
 予想外の収穫に上機嫌になって、独り言を呟きながら早速パックを開ける。手元にある輝くカードに目を止めると、テキストの内容を確認する。
「お、このカードいいな。コストも悪くない」
『……』
「こっちは組み合わせ次第か。ちょっと重いけど、この効果は使えるよな。どうするっかなー」
『……』
「ーっと……」
 いくら話しても、ユベルから何の反応も返ってこなくて、思わず口をつぐむ。普段は煩いくらいつっこんでくるのに、それが全くないというのは不自然だ。
「……ユベル」
『なに?』
「調子悪いのか」
『べつにー』
 答えは返ってくるものの、視線は前を向いたままで姿勢が全く変わっていない。まるでこちらを無視してるかのように。そこでようやく、表情がいつもより硬い事に気付いた。
「ひょっとして、悪いのは機嫌の方か?」
『べつにー』
「……悪いんだな」
 一つ息をつく。少し前進はしたが、事態が解決するにはまだ一手間かかるだろう。
 ユベルが機嫌を損ねる時は、大抵自分の行動に問題があるというのは経験上分かっている。ただ、その問題となっている行動が「他の人間と馴れ馴れしくした」とか「態度がそっけない」とか、言われてみればそうだったかもしれないと思う程度のものだから、自分一人で察するのは難しいのだ。
「なあ、オレ何か悪い事したのか?」
『してないよ』
「本当に?」
『してないったら』
 重ねての否定に首を傾げる。いくら怒っていても嘘をつく事はないので、自分が何もしていないのは間違いないのだろう。ただ、そうすると何故ここまで不機嫌なのかが分からない。
「うーん……」
 困りながらポケットに手を入れると、乾いた感触がした。何も入れていなかったはずなのに、と不思議に思いながら中身を外に出すと、手の中にチョコレートの包みがあった。それを見ると、視線をユベルの方に戻す。
「ユベル」
『なにさ』
「これやるから、とりあえず機嫌直せよ。なっ」
 透けて見える体の前に、お菓子の乗った手を差し出す。甘いもので釣ろうという作戦だ。ちら、とそれを横目で見ると、大きなため息が紫の唇からもれる。
『キミってどうして……』
「ん?」
『……なんでもない』
 軽く翼を動かすと、左右違う色の瞳がこちらに向けられる。ほんの少し口の端を上げる仕草は見慣れたものだ。
『ありがと』
 多少は機嫌が直ったようだと判断して、表情を緩める。苦笑と同時に思わず軽口が出た。
「ま、やるって言ってもオレが食べる事になるんだけどな」
『いいんじゃない。ボクからのプレゼントって事で
「どうしてそうなるんだよ」
『だって、そのチョコはボクのものなんでしょ。それをキミが食べるなら、ボクからプレゼントしなくちゃいけないじゃない』
「えっと……」
 分かるような分からないような理屈に首をひねっていると、くつくつと笑い声がする。
『キミの頭じゃ考えても無駄だと思うよ
「お前なあ」
 あんまりな台詞にぼやきながら、ぽんとチョコレートを口へ。すぐ独特の苦味と甘味が口の中に広がって、心が少し落ち着いた。
「……ん、美味い」
『良かったね』
 その言葉に頷いて、ふと思った事を口にする。
「でも、オレなんでチョコ持ってたんだろ」
『さあね。誰かが勝手に入れたんじゃない?』
「誰かって誰だよ」
『誰かでしょ』
「いや、だから――」
『ねえ、もうそろそろ日が暮れそうだよ。寝る場所探した方がいいんじゃないの』
 遮るような言葉を不審に思ったが、追及はしない。ここでまた機嫌を損ねられたら困るし、あたりが暗くなっているのも事実だ。
「そうだな」
 ふと手元の時計を見たら、2/14という文字が見えた。