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龍吉@プロフご一読下さい
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novelistID. 27579
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火葬曲

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風が吹いた。
 轟々と音を立てて燃えさかる炎から、火の粉が飛んでくる。火の粉が頬に触れ、一瞬暖めてから煤となって落ちた。
「馬鹿な男だ」
 呟くように、公孫勝は言った。炎の中に横たわる人間の顔はもう分からない。人間など、誰もがそんな物だった。親も、返事をしなくなればそれは親ではなく、ただの肉塊だった。だから、食えた。そう思わなければ、まともでいられなかった。
 今、目の前で焼かれている男もそうだ。
 再び、頬に熱い火の粉が触れた。
「公孫勝、風上に来い。火の粉を被っている」
 宋江に言われたが、動こうという気になれなかった。目を閉じ、風の動きを全身で感じる。
 三度、火の粉が頬に当たる。まるで、口づけを施されたかのように熱くなり、通り過ぎていく。
 林冲。
 ふと、面影が浮かんだ。高廉との戦いのあと、右脚を折った公孫勝を手当てしたのは、林冲だった。
 膝に触れた林冲の手のひらが、固く大きかったのを思い出す。手当が済んだ公孫勝を、林冲は百里風に乗せた。鞍の上に抱え上げられ、腕の中に抱き抱えられるようにして進んだ。背中に当たる林冲の胴体にもたれ、必要以上に体重をかけてみたりもした。その度に林冲は怒鳴ったが、馬から下ろそうとはしなかった。
 次に会った林冲は、冷たかった。
 全身に矢を受け、血にまみれた林冲が、担架に乗せられ運ばれてきた。
 心の奥に、鉛のような冷たい塊が落ちていくのが分かった。
「馬鹿な死に方を」
 口をついて、言葉が出てきた。
 反論するかのように、目の前の炎が爆ぜる。飛び散った火の粉が、首筋や耳に当たった。首筋に当たった火の粉が、いつまでも熱い。堪らなくなって、炎に背を向けた。
 急に強い風が吹き、むせ返るように濃い煙が背中にぶつかった。温かく、背中から抱きしめられた気がした。息をのみ、立ち止まる。
 風が弱まり、温かい温度を奪うように煙は通り過ぎていった。
 初めてあったとき聚義庁の前の石段で吹かれた、冷たい風。太原を渡る強い風。百里風の上で感じた風。耳元で感じた、林冲の呼吸。
 どれも側に林冲がいて、一緒に感じた風だった。
 今感じている風は、そのどれよりも温かく穏やかな風だった。
 公孫勝には、その風が林冲の別れの挨拶のように感じられて、苦しかった。目頭が熱い。眩しいほど青い空を仰いだ。
 一羽の鷹が、天空高く冲している。その直後、風に乗って矢のように飛び去っていった。
 鳥ならば、戦場の彼の隣にいられたのだろうか。
 彼に降り注ぐ矢の、盾になれただろうか。
 何も残さずに過ぎ去っていった彼と共に、どこか違うところへ行けたのだろうか。
 視界の雲が、滲んだ。風のせいだと、公孫勝は思った。