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目測二一メートル先の恋

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ピッチの上で、南沢はだらしなくサッカーボールを椅子代わりに座り、夕陽を眺めていた。秋を感じさせる涼しい風が、夕陽で輪郭を赤く染められた木々の葉を揺らす。別に感傷に耽っているわけではなかった。

「南沢、サボってないで片づけろよな」

遠く後方、ゴール前から三国の非難が背中に届いた。一年生である三国と南沢は、他の一年と同様に練習後の片付けが義務づけられていた。他のメンバーはサッカー棟の掃除に駆り出され、ここに残されているのは三国と南沢の二人だけだった。三国はピッチのあちらこちらに散らばったサッカーボールをかき集めては、籠に収めている。

南沢は返事をせずに、とても大儀そうに嘆息し、渋々と立ち上がった。そして、椅子代わりにしていたボールを軽く蹴りあげる。ボールはおおきな放物線を描いて、三国の傍、ゴール前に置かれた籠の中に吸いこまれた。ナイス・シュート。

「巧いな」

三国の言葉に南沢は口の端だけで笑い、もう一度近くにあったサッカーボールを蹴りあげた。サッカーボールはまるでそうなることが自然のことのように、先程と同様に籠に収まった。

「やっぱり、南沢はすごいな。お前ならきっといつか一〇番をもらえるさ」
これは決して世辞などではなく、三国の本心であった。

「当然だろ。俺は未来の雷門中サッカー部のエースストライカーになる男だぜ」

胸を張って豪語する南沢の態度は傲慢ともとれかねなかったが、三国はそうは思わなかった。彼にはその言葉を口にするだけにふさわしい、いやそれ以上の実力と、陰の努力を惜しまないことを三国は陰で十分に知っていた。

「そうだな。お前なら必ず実現できるよ」

真っ向から賛辞されることはとても気分の良いことだったが、それが三国相手であると、どうにも南沢は耳の裏のあたりがこそばゆくなってしまう。

(お前は、俺には真っ直ぐすぎるんだよ)

三国はいつだって南沢にまっすぐに向きあっていた。南沢の実力を認め、南沢がなにか問題を起こせば叱咤し、南沢に嬉しいことがあれば自分自身のことのように喜んでくれる。
正直、そんな三国にどう向きあうべきなのか、南沢はわからなくなることが多々あった。ピッチのど真ん中で独りきりで取り残されたように恐ろしく、どうしたらいいのか見当もつかない不安感が南沢を襲ってくる。

南沢はそんな焦燥感を振り切るように、ピッチ上に未だ取り残されていたサッカーボールに近寄る。体からあふれるなにかをそれにぶつけるように、サッカーボールを思い切り蹴りあげた。
今度は放物線ではなく、まっすぐにゴールへ走り抜けた。三国は突然のことに反応が追いつかずとも、ゴールキーパーの習性からサッカーボールの軌道の先へと手が伸びた。が、一足間にあわずにサッカーボールはゴールを貫いた。

「突然、どうしたんだよ?」
「別に。ただ片づけるだけじゃ面白くないから、三国くんのキーパーの練習を兼ねてやろうかなって思ってさ」
挑むようにけしかけると、三国はにやりと笑って両の拳を突きあわせた。

南沢は、ペナルティーエリアに取り残された最後のサッカーボールを足下に引き寄せた。自分が立つペナルティーアーク外から、三国が立つゴール前までの距離は目測約二一メートル。

(ボールを蹴ったら、あっと言う間に届く距離なのにな)

南沢は、三国とのこの距離がひどく遠く感じられた。だが、これ以上三国と近づいて向きあう勇気がいまの南沢にはなかった。

(ボールと一緒に、届けばいいのにな)

そんな思いが南沢の体を走った。(情けねぇ)それを振り切ろうと、三国にばれないように頭を小さく振った。

(てか、あいつ鈍いから、届いても気づかねぇだろうな)

南沢は口元だけで笑った。そして眼を閉じ、ちいさく息を吸って、止めた。体のすべての神経を足下のサッカーボールに集中させる。
眼を開く。二一メートル先の三国と向きあうと、三国もこちらを見据えていた。
そのまま、体の奥深くからあふれる想いのすべてを右足にこ込めて、蹴りあげた。

ただひとつの純粋なまでに透き通った想いを乗せて、サッカーボールはまっすぐに軌跡を描いて、二人の間を走り抜けた。
作品名:目測二一メートル先の恋 作家名:マチ子