【6/26】向こう側の彼【サンプル】
二階に上がると、今日の食事当番らしいブルーノが、目玉焼きの皿を手に振り向いた。食卓ではジャックが食後のコーヒーを飲んでいて、クロウは既に席を立っていた。
「十代さんが最後だよ」
「遊星の奴、もう出たのか?」
「走行練習だってさ。こんな早くに、珍しいよね」
「練習ねえ…。んじゃ、俺も行ってくるわ」
「いってらっしゃい、クロウ」
十代の席にもすぐに朝食の用意が整えられた。ブルーノも席につき、二人で食べ始める。もそもそとトーストを咀嚼しながら、十代はそれとなく辺りを伺った。特に変わったようなところはない。本当にここは、十代の知るポッポタイムではないのだろうか。向かいに座るブルーノや、ジャックにも違和感は無い。まるで普段通りだ。遊星以外は……。
「遊星と、ケンカでもしたの?」
「はっ…?」
思わず、目玉焼きにフォークを突き立ててしまった。どろりとした黄身が皿を流れる。
「ね、ジャックもそう思うよね?」
「ふん! 俺が知るか」
「ええっ、だってさっき『遊星はどうかしたのか』って……」
「知らんと言っている!」
ソーサーに乱暴にカップを置くと、ジャックは立ち上がり、ガレージへ降りて行ってしまった。高らかな足音が遠ざかっていく。
しばし沈黙が降りた。
「……ええと、」
ばつが悪そうに頬を掻いて、ブルーノは切り出した。
「だって、遊星が十代さんと一緒に食事をしないなんて、初めてだから……。朝も、なんだか浮かない顔してたし。何かあったのかなあ、って」
「…………」
あったことは、あった。だが、それを口にするべきか否か。瞬時に、すさまじい葛藤が十代の中に渦巻いた。そしてその渦は、続くブルーノの言葉によって、一瞬で爆発した。
「恋人同士の悩みに他人が干渉するのは良くないのかもしれないけど、何か協力できることがあれば…」
「……ん?」
ちょっと待て。
―――恋人?
――――誰と、誰が?
「二人には幸せになってほしいって思ってるし、僕、」
「ちょっ…ちょっ、ちょっと待ってくれ、ブルーノ!」
「はい?」
「こいびと? …って……?」
おそるおそる口にした十代に向かって、嘘を知らない子供のように、ブルーノは言ってのけた。
「十代さんと遊星って、付き合ってるんでしょ?」
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「向こう側の彼」より抜粋
作品名:【6/26】向こう側の彼【サンプル】 作家名:ひょっこ