ロマサガ3 カタリナ編
そこまで言って、モニカは口をつぐんでしまった。しかし、それだけ言ってもらえれば状況を判断するには申し分ない。
「・・・それは確かなのですね?わかりました。では私がすぐ馬を出してミカエル様にお知らせに上がります」
どうやら事態は一刻を争うようだ。
既にミカエルが遠征に出てから幾日かが経過している。ミカエルの手腕ならばもう既に討伐は終えていると考えて間違いないので、帰路に着き始めているかもしれない。そうなれば、事を起こすとしたらもう間もないはずである。
しかし、踵を返して歩き出そうとするカタリナを止めたのは、誰あろうモニカ自身であった。
「・・・モニカ様?」
「待って、カタリナ。お知らせには・・・私が行くわ」
真摯な目をしてカタリナを見つめるモニカ。しかし驚いた様子のカタリナは、とんでもないという風に首を振った。
「何を仰るのですか。このような天候の中、馬で外に出るなど余りにも危険です。このまま雨が降れば、馬術に長けたものでも危険であるというのに!」
普段こっそりとカタリナ自身がモニカに剣術や馬術を教えてはいるものの、流石に今日の天候では馬を御するのはいくらなんでも無謀なことだった。
だが今度はモニカが首を振る番である。モニカはもう一度カタリナの両手を強く握りながら口を開いた。
「聞いて、カタリナ。男爵は万が一を考えて・・・私を人質にとろうとしているの。私がここに残ってもお兄様に多大なご迷惑をかけてしまうだけなのっ!お願い、カタリナ。私を行かせて!」
「し、しかし・・・」
モニカのいつになく真剣な声音に、カタリナはすっかり気圧されてしまった。齢十五の頃からずっとモニカの傍にいた彼女でも、ここまで声を荒げるモニカを見たことはなかった。
「お願いよ、カタリナ。私、必ずお兄様にこのことを伝えて見せるわ。だから、貴方はここに残って、私がいなくなったということを出来る限り男爵たちに知られないようにして欲しいの!」
この少女の目にはこんなにも力があっただろうか。カタリナは場違いにもそんなことを考えてしまっていた。流石は兄妹というべきか。モニカの目にも兄と同じく、どうあっても逆らえない王者の気質がしっかり備わっている。カタリナには、この目に逆らう術はなかった。
「・・・分かりました。ではそのようにいたしましょう・・・」
悩む暇も無い。カタリナがため息混じりにそういうと、モニカは一転して笑顔になった。
「ありがとう、カタリナ!じゃあ私はすぐ着替えてくるわ!」
そういって、自らのクローゼットへとモニカは駆けていった。
「やれやれ・・・ね」
それを見送ったカタリナは、自分の腰に刺してあった予備の小剣と、棚にあった雨凌ぎ用のローブ、そして路銀をいくらかまとめ、部屋の窓際にある鏡の前でモニカを待った。
程なくしてモニカが遠乗り用の格好で歩いてくる。
「こちらを・・・」
カタリナが用意したものをモニカに渡すと、それらをすべて身につけたモニカは鏡の脇にある模様の一つを不意に引っ張った。すると、仕掛け鏡になっていた鏡面部分は消え去り、その先には薄暗い階段が下へと続いていた。
「では、お気をつけて・・・」
「ええ、こちらのことは頼んだわ、カタリナ。それじゃあ」
言うが早いか、モニカは軽快に階段を駆け下りていく。隠し通路はいくつかのルートの一つが遠乗り用の馬小屋に直結しており、程なくして窓の下を走り抜ける駿馬の姿がカタリナにも確認できた。
「どうかご無事で・・・」
暗雲の下を走り去る馬を見ながら静かにそう祈った彼女はすぐに鏡を元に戻し、表情を険しいものへと変えて部屋の中央に向き直った。
「・・・さて、どうしたものか・・・」
作品名:ロマサガ3 カタリナ編 作家名:himajin