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咽喉が鳴る 腹が鳴る

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Qは泣き出しそうな顔をしていた。しかしよく見ずともその顔には涙などなく、なにをもって泣き出しそうと感じたのかは、三國自身にもわからなかった。輪転機の影響により少々ぐったりとしているが、ふだんから常に夢のなかをさまようような様子であるためか、それほど大きなダメージには見えない。だがそれも見えないだけで、アセットにとってどれほどの苦しみであるかは量れていないのだ。
 Qはうすらと目を開けて、ひっそりとため息をこぼした。
「……食べてしまいました」
「……ああ」
 アセットは基本的に食事はしない。例外はこの少女型のアセットと、もう一体の朱い少女型だ。しかしこの両者では、決定的な違いがある。後者は好奇心を満たすために食事をするが、Qはまさに食欲というべきものを満たすために食べるのだ。だから、食事の内容はまったく異なる。人間の食事と、資産──アセット。
 アセットは物であり、所有物に過ぎないと考えている者であっても、Qの「食事」には耐えられないらしい。か弱き少女の姿をしているのが、その理由として大きいのだろう。生理的嫌悪感すら沸き上がらせるほどに、Qは大食家だった。
「良いアセットだったのです」
「ああ」
 応える三國の気持ちに偽りはない。カカズズは、強力だが特異性の強すぎるQとオーロールを補って余りある強さと汎用性を持っていた。カカズズのフレーションも特徴的であったが、複数のアセットを持つ三國には扱いやすかった。はじめて三体をそろえたときには、あまりにしっくり来るものだから、自分のために用意されたアセットかとうぬぼれたくなったほどだ。
 しかし、もうカカズズはいない。
 敵のマクロフレーションのせいとはいえ、少々惜しいと感じるのも当然だろう。だが同時に、カニバリゼーションとはよく名付けたものだと思う。結局三國のアセット同士で共食いしてしまったことに変わりはない。
「Q。さみしいか」
「……さみしいというものはわからないのです。わたしはアセットでしかないのです」
 だがそのアセットが、アントレの未来であるのだ。同時に本質を表すものでもあるのだろうと、三国は捉えていた。だからこそ、自らからQが生み出されたことに驚きはしたものの、納得した。
 三國こそ、Qに負けぬ大食家だったからだ。
 まず、父親の会社を平らげた。経済界といわれるものを平らげ、政府関係者も掌握して日本を平らげた。金融街も椋鳥ギルドによってほぼ平らげて、今度は唯一のダークネスカードの持ち主として未来も平らげようとした。ひとつを得てしまえば、次が欲しくなる。次が手に入れば、さらにその次が欲しくなる。そうやって三國は、根こそぎ飲み込んできた。
 まさに、Qのように。
「でも──おいしかったのです」
 彼は、とても。
 Qは笑うことがないため、代わりに三國が満足気に笑う。あんな大物を腹に収めたとなれば、もうしばらくはQもミダスマネーで空腹をまぎらわせる必要はなくなるだろう。
「おまえは、そういうものだからな」
 三國も本質のままに、「彼」を平らげてしまっていればよかったのかもしれない。そうすれば、こんな事態にはならなかったのだろう。身体も、心も平らげてしまえばよかった。

 思い出したように舌なめずりをするアントレとアセットは、よく似た顔をしていた。