騙された!
ぶつぶつと文句を言いながら、エドは夜の街を歩いていた。
しかも珍しく酔いつぶれてぐったりしたロイに肩を貸しながら。
ロイの部屋で留守番をしていたエドは、ヒューズからの電話で呼び出され、ロイとヒューズの行きつけのバーへ行って見れば、カウンターに
突っ伏しているロイの横でヒューズがひらひらと手を振っていた。
「悪いなエド。本当なら俺がロイを運んでやるんだが、俺も呼び出されちまってよ。」
すまねぇなと言い残し、立ち去ったヒューズの背を見送り、エドは仕方無くロイを連れ帰る事となったのだ。
ロイを引き摺るようにしながら、歩いては休みを繰り返して。
エドは何度目かの溜息を付いた。
「大佐ぁ…」
困ったように呟き、ロイの顔を覗き込む。
ロイは「うー…」と声を漏らしただけで、相変わらずぐったりとしたままだった。
「もー…」
ロイを背負い直し、再び歩き出そうとした時。
不意にロイの足元ががくりと崩れ、エドは引き摺られるように体制を崩した。
「うわっ?!」
危うくロイの上に倒れ込みそうになったエドは、よろめきながらも何とか踏み止まったが、反動でロイの反対側の路地に回り込む形となった。
「信じらんねぇ…」
崩れたロイを見下ろし、呆れたように呟いて。
取り敢えず歩道は邪魔になるので、ロイの身体を路地に引っ張り込んだ。
そうしてその場に座り込んだエドは、どうしたものかと溜息を付いた。
しかし、未だかつてこんなに酔い潰れたロイを見るのは初めてだ。
一体何があったと言うのだろう。
きっと。
自分には言えない事なのだろうと。
目の前のロイを眺めながら、エドはぼんやりと思った。
「でも・・・それって淋しいよ・・・」
ぽつり、と。
そう、エドが呟いた時。
だらりと垂れていたロイの腕が、エドの腕を掴んだ。
そうしてあっと言う間に、エドはロイの胸の中に納まってしまった。
「え・・・ちょっ・・・」
慌てて身体を起こそうとするが、ロイの力は酔っているにしては強かった。
「大佐!大佐ってば!!」
ロイの胸の中でじたばたともがいてみたが、ロイの力は緩む事は無く。
エドは仕方無く、そのまま大人しく体の力を抜いた。
「鋼の・・・」
小さく、ロイの口が開かれた。
「ずっと・・・私の傍に居るのだぞ・・・」
その、言葉に。
エドは大きく瞳を見開き、そうして柔らかく微笑んだ。
ロイの背に、腕を回す。
とくん、とくん、と、規則正しいロイの鼓動が聞こえる。
その音に、心地良さを感じて瞳を閉じかけ、エドは、はっ、と我に返った。
規則正しい、鼓動?
酔っ払っている者の鼓動が、こんなに規則正しい筈が無い。
エドはがばっ、と身を起こし、声を上げた。
「ほんとは酔って無ぇだろ大佐!!」
その言葉に、項垂れていたロイの口から、くっくっくっ、と笑い声が漏れた。
それは楽しそうな声になり、そうして漸くロイは顔を上げた。
「バレてしまったか。」
ロイは肩を竦めて見せ、エドを観た。
「だが先程までは本当に意識は無かったのだぞ?気付いたのはここに倒れ込んだ時だ。」
「それでも汚ぇよっ!」
物凄く心配したのに。
エドは叫ぶとくるりとロイに背を向けた。
「鋼の。」
背後で、ロイがエドを呼んだ。
「さっきの言葉は、本心だぞ。」
そう、背で紡がれた言葉に。
エドは柔らかな笑みを浮かべた。
Fin.