正臣、誕生日おめでとう!
親友という名のもどかしい中に留まっていることが堪えられなくなった正臣が帝人に告白をして付き合うことになったのだ。
放課後誰も居なくなった教室で帝人に告白すれば、彼は年の割には幼い顔を真っ赤にさせ「ぼ、僕もずっと前から正臣のこと…す、好きだったんだ…。」と言ってくれた時には正臣は死ぬほど喜んだ。
いくら“親友”という関係がもどかしいと言っても正臣が告白をし、帝人がそれを断れば二人の関係は気まずくなり親友どころか友達として会話をすることすら無くなる可能性があったが、今となってはそんな心配など正臣にとってはどうでも良いこととなっている。
何故なら、明日は二人が付き合って初めての正臣の誕生日だった。
付き合う前は0時ぴったりにメールで“誕生日おめでとう”と来るだけだったが、今年は今までとは違う関係となっているため、いつにもまして正臣は自分の誕生日が来るのが楽しみで仕方がなかった。
正臣は部屋に居ても落ち着か無かったため少し一人で街をブラブラすることにした。
夕方の街はカップルが多く一人で居ることの虚しさを感じたが明日帝人と二人きりで甘い時間を過ごすと考えれば虚しさなどはどこかに消えていった。
しかし、歩き始めてしばらくして正臣は親友の杏里と愛しい帝人が仲良く二人きりで歩いている姿を見てしまった。
二人の姿は完全に街のカップルに溶け込んでいた。
正臣は二人の姿を見ると時々、思うことがある。
『帝人は本当は俺なんかじゃなくて杏里の事が好きなんじゃないのかって…。
可哀想な俺に同情して俺の告白をオッケーしたんじゃないかって…。』
正臣は最後まで二人の姿を見ることはなく歩いて来た道を歩いてきた時とは真逆のテンションで一人寂しく帰っていった。
はぁーっと正臣は一人部屋で大きくため息をつけばまた、今日見た二人の姿が瞼の裏に思い浮かぶ。
「あぁーっっ!もう何やってんだよ俺っ!!」と、愚痴を言いながら自分の頭を掻き、時計に目をやるとあと5分で自らの誕生日が来てしまうことに気付く。
頭の中はとにかく“帝人にどんな顔して会えば良いのか”ということで一杯だった。
そんなことを延々と頭の中で繰り返せばいつの間にかあと30秒で誕生日である。
5ー………4ー……3ー……2ー……………
0時になり正臣の誕生日が来た瞬間携帯がなった。しかし、それはメールではなく電話の着信を告げる物だと分かった時には慌てて通話ボタンを押した。
「も、…もしもし。」
未だに整理の着かない状況での会話のため、自分の声が少し上ずってしまったのが分かった。
「正臣、誕生日おめでとう。」
いつも通りの帝人の声…。
安心する反面胸が苦しくなる。
そして、急に不安が正臣の全身を襲う。
沈黙が続き、それを不思議に思ったのか帝人が口を開いた。
「正臣?どうかした?」
「………。」
正臣は何も言えずただ黙っていた。
帝人にこの不安な気持ちをなんて伝えれば良いのだろうか…。
『杏里と何で二人きりで居たのか。
帝人は本当に俺を好きなのか。
そんなこと……、臆病な俺には聞く事が出来ない……。』
「……正臣。今、家だよね?今からそっちに行くから待っててね。」
その言葉を最後に電話は切れた。
それより、今はまだ状況が掴みきれてない。
今、“電話で俺の家に来る”とか言ってなかったか?
この時間に?
また、携帯から着信音が聞こえてきたため急いで携帯を手に取ると帝人は走ってる為か息を荒げながら正臣に部屋の鍵を開けるように言ってきた。
帝人のいう通りに玄関に向かった。
ドアの鍵に手をかけようとしたとき、電話越しで聞いた恋人の大きく息を吸い、吐き出す音が聞こえてきた。
反射的に正臣は外へと駆け出した。
部屋着の上に裸足のまま、汗だくの帝人に抱きついた。
誕生日に一番最初に彼に会えた事が嬉しかった。
それに何よりもこんな時間に自分のことを思い、ここまで走って来てくれたのが幸せだった。
正臣は帝人の肩を抱き締めながゆっくりと話始めた。
「帝人ー……。会いたかった……。」
「………はぁー。何で今日の正臣はこんなに甘えん坊なの?」
まだ、肩を大きく上下させながら帝人も正臣の背中に腕を回した。
「だって……」
「………ん?」
「昨日の夕方さ…、帝人と杏里…二人きりでデートして、いちゃいちゃしてたじゃん……。なんか、それ見たらさ……本当に帝人は俺のこと好きなのかなー……って思って…」
思わず抱き締めた腕に力がこもる。
「………はぁー。何で正臣はそんなにタイミングが悪いの…?」
「じゃあ、やっぱり帝人は…」
そこまで言った所で正臣の言葉は帝人の唇によって遮られた。
「っ!?」
噛みつくようなキスには驚きながら帝人を見ると帝人は顔を真っ赤にさせながらキッと正臣を睨んだ。だけどその睨んだ目は涙ぐんでいた。
「正臣、話は最後まで黙って聞いてよね。今日って、つ、付き合って初めての正臣の誕生日でしょ?だから、今回は何かプレゼンしたいなって思ったから園原さんにアドバイスを貰いながら昨日、正臣の誕生日プレゼント探ししてたんだよっ」
そこまで帝人は一息で言うと息を整えて赤くなっていた顔を更に赤らめながら正臣に言った。
「それに…僕が好きなのは正臣だけだよっ!!」
あー、もうどうしてこんな恥ずかしいこと言わせるのかなぁー…と、小さな声で言っていたが今の正臣の耳には届くことは無いだろう。
(あー……もう、どうしてこんなに帝人はかわいいんだっ!!)
正臣は真っ赤になった帝人をまた、きつく抱き締めた。
「帝人……サンキュー……」
「うん………。
正臣……誕生日おめでとう…。
生まれて来てくれて、僕を好きになってくれて、ありがとう………。」
今日はなんて最高な誕生日なんだ…。
帝人に好きと言われてキスされて……
今までで一番の誕生日だ。
「なぁー帝人ー…。」
「ん?」と言いながら正臣を見上げた帝人にキスをした。
「さっきの仕返しっ!」
正臣がそう言いながら笑うと帝人は一度引いた顔の熱がまた一気に上がり、拗ねたように「バカ臣っ!」と言ってきた。
いつの間にかもうすぐ夜明けだ。
だけど二人の甘い誕生日はまだ始まったばかりだ。
作品名:正臣、誕生日おめでとう! 作家名:悠久