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白と赤の話

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『日々仲良く学校の破壊活動に勤しんでいた』。
高校生の頃の俺と臨也を新羅に言わせるとこうなるらしい。
俺達からすれば“仲良く”なんてしていた覚えはカケラもないし、少なくとも俺の方は好きでやっていたわけでもないので“勤しんでいた”と言われるのも心外だ。破壊しなかった、とは言い切れないのが痛いところだが。


あいつが俺を挑発し怒らせ、キレた俺があいつを追いかける。どれだけ物を投げても追いかけてもうまいことかわしやがるあいつに俺はさらに腹を立てる。
そんな忌々しい流れが日常化していた高校時代に、臨也が一度だけ流血ものの怪我をしたことがあった。
ナイフや包丁のような凶器そのものを俺が使うことはなかったせいか、あいつの血を見たのは本当にその一度きりだったように思う。(もちろん擦り傷や掠り傷、打撲なんかはそれなりにあったらしいが)

俺が投げつけた何かで脛のあたりを切ったらしかった。細かいことは覚えていないが、新羅に手当てをされている臨也の足元の、脱いだ上履きの上にのせられた元は白かったはずの靴下が真っ赤に染まっていたのだけは覚えている。
「出血量の割には傷は浅かったから大丈夫だよ」
大したことない怪我でも大袈裟に出血するなんて血の気が多い証拠だよと、目の前にいる臨也に言うにしては大きめの声で新羅が言っていた。教室の入り口に突っ立ってぼんやりと新羅たちを見ていた俺の態度を、臨也を心配しているとでも勘違いしたのかもしれない。
もちろん俺が臨也に対してそんな殊勝なことを思うはずもないので、“黒と赤と肌色ぐらいしか色がねぇ臨也でも靴下は白いのか”なんて本当にどうでもいいことを考えていたり、“わざわざ挑発してきたくせにこっちが追いかけるとすばしこく逃げやがるノミ蟲で人でなしな奴のくせに結局は普通の人間なのか”と妙に感慨深くなったりしていただけなのだが。


◇   ◇   ◇


「…シズちゃん?」
「―――あ゙ぁ…?」
足が見えた。黒いズボンと、その裾から出ている白い靴下。
高校生の臨也か。
一瞬納得しかけたがそんなはずはない。俺達はもう十年も前に高校を卒業しているのだから。どうやら昔のことを思い出していたせいで記憶が混線したようだ。
あの頃より大人びたようなろくに変わっていないような年齢不詳の顔が、床に寝転がっている俺の顔を覗き込んでくる。
「待たせちゃったみたいだね。寝てたの?」
…ああそうか、なんとかっていう店のケーキを客にもらったから食いに来いって言われて、仕事帰りに部屋に行ったらまだ帰ってきてないみたいだったからとりあえず寝てたんだった。
ソファは本だの紙束だのに占拠されていたから仕方なく床に転がったのだが、日中ずっと光が当たっていたらしいフローリングの床はあたたかくて、その硬さにさえ妥協すれば意外と寝心地は悪くなかった。
「…今一瞬、高校生の手前が来たかと思った」
「俺は一瞬シズちゃんが死んでるかと思ったよ。ていうか高校生の俺ってなに?」
「靴下が白かったから」
「何それ、シズちゃんて靴下の色で人の年齢判断してるの?それはぜひ俺にもコツを教えてほしいなぁ」
「ちげぇよ馬鹿。…お前普段白い靴下なんざ履いてねえだろ」
「あぁうん、高校以来履いてなかったかな。あいつらがいつの間にか昔履いてたやつと入れ替えていったみたいなんだよねぇ。もう子供でもないってのに、未だに悪戯ばっかりだ」
あいつらとは九瑠璃と舞流のことだろう。血は争えねぇな、と皮肉をこめて言ってやると、ほんとだよねぇ、とさらりと同意が返された。自覚はあったようだ。
「ところでさぁ、しばらく会わないうちにシズちゃん髪伸びたんじゃない?そろそろ染めなよ。それとも色戻してみる?頭皮の強度くらいは常人並かもしれないし」
言いながら毛の束をつまんでは落としたり、指を差しいれて梳いてみたりと、人の髪の毛をおもちゃにしている。
ノミ蟲の次は毛づくろいする猿か。
そう言おうと思って口を開いたが、寝言みたいなごにょごにょとした言葉しか出てこなかった。
「え、なに?さる?ざる?あーなんか久しぶりにざるうどん食べたいなぁ俺。今日の夕飯うどんにしようよ」
“猿”のあたりだけ聞き取ったらしい臨也がとんちんかんなことを言っているが、面倒なので返事はしない。本格的に眠たくなってきた俺は、かろうじて半分開けていた目も閉じた。

「……あーあ、本気で寝ちゃったよ」
目も口も閉じたものの、耳と頭は一応働いていた。いくらソファが空いてなかったからって床で寝るとかどうなのさ、とこぼしながらも、寝かしつけるような手つきで俺の髪を梳いているのがわかる。起こしたいのか寝かせたいのかはっきりしろ。
「しょうがないなぁ、シズちゃんは」
ぽつりと呟く声のあと、手が離れていった。猫のように小さな足音が遠ざかり、少ししてまた戻ってくる。
ポス、とかけられた感触は多分こいつのベッドの布団だろう。俺んちのより暖かいくせにやけにふわふわしてて軽いやつ。
続いて隣に何かが潜り込んでくる感触と、投げ出していた腕にかかる少しの重み。
…こいつ勝手に人の腕を枕代わりにしやがった。
臨也が寝心地のいい場所を探してもそもそと動くたび首筋にやつの髪が当たってくすぐったかったが、口を開くのも億劫なので好きにさせておいた。
そうしてしばらくすると腕にかかる重みがわずかに増し、穏やかな寝息が聞こえてきた。どうやら相当疲れていたようだ。
規則正しい呼吸音をきいているうちに、あいつが隣に潜り込んできてからは若干薄れていた眠気が再びやってきた。このままなら俺も直にまた寝てしまうだろう。

少し寝て、起きたらうどん。うどん食ったら風呂入って、ケーキ食って寝よう。
ああでも、人の腕を無断借用している隣のノミ蟲はかなり疲れているようだから風呂入ったあとは即寝かもしれない。そしたらケーキは明日でいいか、俺もこいつも休みだし。

そんな風に起きた後の予定を立てていた俺の足に、ひた、と臨也の足がくっついてきた。冷え性なんだろうか、こいつの足先はいつも俺の足より少し温度が低い。
仕方ねえ温めてやるかと自分の足で挟み込みながら、さっき目を覚ました時に見た白い靴下の足を思い出す。黒づくめの中で異彩を放つ白は、あの時とは違って赤くはなかった。
……“あの時とは違って”だなんて、まるであの時のことに未だにこだわっているみたいだ。自分の考えたことながらも少し意外だった。
当時は特に気にしなかったが、臨也の血を見たことは案外自分の中で印象的な出来事だったのかもしれない。ノミ蟲と罵倒し殺したいほど嫌っていた人でなしが普通の人間と同じように血を流していたせいか、それとも血が出るような怪我をさせてしまったせいか、どちらかはわからないが。
少なくとも今は、あの時赤く染まったのが靴下だけで済んでよかったと思っている。
あの時だけじゃない、それ以降も、臨也を殺してしまわなくてよかった。
昔の俺が聞いたら驚きで臨也の頭の一つもかち割ってしまいそうなことを考えたのを最後に、俺は意識を手放した。


◇   ◇   ◇


起きてすぐ目に入ったのは、男のくせに無駄に白い臨也の顔。先に起きていたらしく、赤い目が俺をじっとりと見上げてくる。
作品名:白と赤の話 作家名:松田