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外的妥当性検証による示唆

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 佐久間が友人であることは疑問に思うことも実感することもないほどごく自然で当たり前のことである。線引きは各個人各各違ってくるであろうが、そんなものは玄妙なもの。然しながら同じサッカー部レギュラーで同輩、よく会話をするとなれば友人と言って差し支えはないだろう。兎も角俺は彼を友人と認識していたし、彼もそう認識してくれていると思っている。それと同時に佐久間がオフェンスの要であるということは、守備の最終壁である俺と対峙することが多く、互いの力量を推し量り、ぶつけ合う、好敵手でもあることも周知ですらあるのだ。だからこそ俺は後生の言っている言葉自体理解することが出来なかったのである。
 完全に内外に区画わけされている帝国学園の室内に自然の微音が鳴り渡ることはないが、その代わり人の会話や跫音、軋めく音や唸る音などが反響し合って不協和音となる。メンバーのかけ声を遠く聞きながら、それでもふと意識の差で静寂になり得そうな空間の中、ジワリと冷や汗が肩甲骨の間をすり抜けていくのを感じた。こちらを見詰めているわけでもなく(むしろ俺がアイツを注視しているというのに)、こちらに意識を飛ばしている訳でもなく(手元のポータブルゲームに夢中になっているようであったのに)、その後生は敬いの心を平淡な言葉の端端に入れる位で態度にそれを出すことがない。先程二人の間を流れていった言葉を掴むことの出来なかった俺は脳内否定を繰り返しながらも、唇を震わせ、笑い飛ばすことが出来ずにただ孤独な空間を恨みがましく思った。動かすことの叶わない足からは根が生え、どんどんと地面との繋がりを強固なものにしていく。

 いや、だから佐久間先輩ですよう、

 媚びるでもなく、相も変わらず手元に視線を落としている成神が繰り返す。主導権を握っているのはあの突拍子もない相手なのだ。俺は足元に根を巡らすことしか許されない。

 どうして、佐久間なんだ?あいつは男だぞ

 我ながら何の面白味もないコメントであると思ったが、生憎こういう場面には不慣れであったため、十四年間で少しずつ書き溜めていった人生を渡るためのマニュアルから引用したまでだったのである。あいつは男、あいつは女、人間の色分け、最も基根的な部分。

 男、ああそうでしたっけ、でもね、源田先輩、先輩のクラスに美人はいますか、可愛い子はいますか、好みの子はいますか、いますよね、クラスに一人くらいは、たとえばその一人ないし三人を各クラスから選出しますよね、そして審査をするんです、基準は別れますけれどでもきっとほとんど同じですよ、どう同じかって?そうですね、まずしばらく見ていると飽きる、写真を撮ってどの子が最優秀か決めるために悩みますよね、その時点でどれも同じに見えてくる、さらに系統に当てはまる、誰かに似ている、見たことがある、所詮は美人、所詮は所詮、違いますか、美人に告白されまくっている源田先輩、

 深く考えたことのないことを押しつけられて、こちらの不利は変わるはずもなく。見飽きる、そうなのだろうか、そこまで他人を見詰めることはそうないのだ、分からない。しかし見慣れる、という感覚なら分かる。思考を巡らせながら視線を僅かに動かしていると、返答を待ちきれないのか待っていなかったのか、成神が先を続け始めた。

 佐久間先輩は違いますよ、きっと、顔がいいのだけが原因じゃあないんですよ、顔が女っぽいのだけが原因じゃあないんですよ、オーラ、匂い、雰囲気、感じ、ニュアンス、性格、視線、装い、それが噛み合っていると思うんですよう、源田先輩、今佐久間先輩を見てきたらいいですよ、俺の言ったことで、気付いたかも知れないじゃあないですか、俺は閃きだったけれど、先輩は俺から言われて、気付く、変わらないですよ、気付いたなら、源田先輩、佐久間先輩を見てきたらいいですよ、

 茶化すように嘲笑するように突きつけるように成神は悪びれなく(それが世の真実であるかのように)自信に満ちあふれた言葉を放っている。俺は記憶のあいつを辿ってみた。友人であることに何の疑問もない。ああ遠く、練習のかけ声が響いているのに、この後生は、自由気ままに手元からそれを放さない。

 先輩だって思うはずです、男だぞ、そう仰いましたね、源田先輩、男、男だから、そうなんですね、ははは、おかしい、先輩もほとほとつまらない、先輩がつまらないのがおもしろい、違いますよ、だって源田先輩、あなたは本当はつまらない人間なんかじゃあないんですから、きっと分かりますよ、きっと聞きたくなりますよ、きっと見たくなりますよ、きっと触りたくなりますよ、きっと泣かせたくなりますよ、きっと傷付けたくなりますよ、きっと優しく包んであげたくなりますよ、きっと依存が欲しくなりますよ、きっと全てに嫉妬しはじめますよ、きっと、きっと、きっと、

 くつくつと笑い声を交えながら唄のように紡ぐ彼の音、そんなものに伝う冷や汗は増すばかりで今はもう全身冷え切っている。佐久間は、だって佐久間は俺の、友人なんだ、疑う余地もなく、彼は、男で、友人で。

 先輩、ねえ、源田先輩、それなら想像してみたらどうですか、信じられない様子と軽蔑が篭もった佐久間先輩の目、うっすら浮かんでいる佐久間先輩の汗の味、濁りのない佐久間先輩の褐色の肌に吸い付く手の感触、脳内を溶かしてしまいそうな佐久間先輩の香り、自分の下で喘いでいる佐久間先輩、自分のものを咥えてよがっている佐久間先輩、涙を溜めてイク寸前の佐久間先輩、自分以外目に入らない佐久間先輩、傷ついて絶望に弱っている佐久間先輩、自分に縋り付いてくる佐久間先輩、想像できます?始めからはそう、上手くはいかないけれども、やっぱり一回実物を見たら分かると思うんですよね、エスカレートするんです、不思議、俺は源田先輩にねじ伏せられている佐久間先輩も、いいと思いますよう?

 もう止めてくれ!そう叫び逃げることが出来ない自分が情けなくて仕方なかった。苛立ちでも軽蔑でも疑問でもなく、今自分が感じているものが何か、言葉としてハッキリと明言することができない。ただアレルギーのある果物を食したときに、喉や腹に広がるムカムカしたものが含まれているのだけは分かった。しかしその他は到底認めたくないものであった。

 源田せんぱーいい、どう思いますう?同意、できないですかあ?

 やっと手元から視線を上げた成神は常見慣れている表情と同じはずなのに全く違う顔をしていた。喉から口内から目から水分はなくなっていき、手や背中から汗となって流れ落ちる。張り付く喉をやっと割って出るのは僅かな呼吸音だけである。

 犯して、ぐちゃぐちゃにしてみたくないですかあ、佐久間先輩をお

 異常なまでに首を傾げて、彼は口角を上げ続ける。周囲が真っ赤に染まっている。その他の色は全て彼に吸い取られてしまったかのようだった。赤い室内、訪れた静寂、そういった状況は全て、俺の答えを待ちかまえているかのようだった。決まり切っている、分かり切っている、そんな答えが容易に出ない事実に愕然としながら祈った事柄は余り宜しくない方向で叶うことになる。

「あ、いた、お前ら、部活はもう始まっているぞ」