ただ、それだけを言いたかった
「タカヤ。」
呼んでみた。返事なんか返ってくるはずない。
もう、練習終わってみんな帰ったからな。
卒業を控え少しの間世話になったシニア。
俺は監督とチームメイトに感謝したい。
あそこまで、腐ってた俺をここまで立ち直らせてくれた。
「あーぁ、今日でここでの練習が終わりか…あっけねぇもんだな。」
なんて、呟いてみた。
部屋の扉が開きタカヤが立っていた。
「元希、さん?」
「タカヤ…。」
「まだ、帰ってなかったんですか?」
呆れた顔をされた。
「別にいいだろ…?」
タカヤは自分のロッカーを開けなにかを探しはじめる。
「タカヤ。何か探しもんか?」
「ここにあったタオル知りませんか?」
タオル…タオル?
辺りを見回ってみた。どこにも無い。
「あっ!!!」
大きな声をあげて俺の鞄を指さす。
「…ぁ!」
鞄には乱雑に入れられたタオル。さっきまで俺は間違ってタカヤのタオルを使っていたようだ。
「わりぃっ!!洗濯して返すな!」
「いいですよ。それあげます。」
タカヤはロッカーの扉をしめ帰ろうとした。
「タカヤ。」
「今度はなんですか?」
「…別に呼んだだけだ。」
あの言葉が言えなくて。タカヤに伝えたいのに伝えられない。
「さよなら。」
行くなよ。
まだ、行かないでくれ。。。
“好き”なんだ。
ただ、それだけを言いたかった。
あの夏。グラウンドでまた会った俺達。
早く会いたくて。名前呼びたくて。“好き”って言いたくて。
「タカヤッ!!」
作品名:ただ、それだけを言いたかった 作家名:アべハルナ