独占欲
アイツは俺のなんだ…今も昔もーーー……
おおきく振りかぶってーー独占欲ーー
「タカヤ。お前、どこはいったんだ?」
試合前。榛名は阿部とフェンス越しで話す。
「西浦っす。」
「ニシウラ?どこだ?」
そんな他愛もない会話をして榛名は秋丸に引き戻される。
「お前、最後まで残ってろよ!」
「こっちも、団体行動ですから。」
プイッとそっぽを向く。
榛名はフェンスにしがみついた。
「なんだァ!?その物言いは!!」
「榛名っ!」
ちっ。と舌打ちをして榛名は秋丸とベンチの方に戻っていく。
「ったく。何だよ、あの態度。久々に会ったってのに。」
ハハッと秋丸は笑うしかなかった。
「アイツ誰だ?俺のタカヤとイチャつきやがって。」
西浦の野球部のいるスタンドを見て榛名がぼやく。
(榛名のタカヤじゃないと思うけどなァ~…。)
秋丸はふと、そう思った。
「でも、いいんじゃない?チームメイトなんだし。」
「よくねぇっ!」
「はいはい。」
ーー試合は4-3で武蔵野が浦総に勝った。
浦総は榛名から一本も打てずに負けた。
その夜。榛名は阿部に電話をかけた。
Priririri…
阿部の携帯のディスプレイには“元希さん”と表示されている。
阿部はおそるおそる携帯を手にとった。
ピッ。
「…もしもし。」
「てめぇ!俺からの電話は3コール以内で出ろって言ってんだろうがっ!!」
なんですか、と阿部はため息混じりでそう言った。
「かわいくねー態度。」
「かわいくなくて結構です。」
「でさっ!今日の俺、凄かっただろ!!」
榛名の声が急に明るくなった。
「そーですね。」
「オマエ、今ヒマか?」
阿部は嫌な予感がした。
「……忙しいです。また、今d「いつもんとこに来いよ!!」
阿部の発言は無視され話しが進む。
「…今からですか?」
時計の針はちょうど12時を指している。
「ぜってぇ来いよ!待ってるからなっ!」
ブツッーーーッーーーッーーー……。
無機質な音が聞こえる。
「なんで…今更。」
いつものところ=公園である。
シニアの頃によく榛名とキャッチボールをした。
阿部はあの公園には二度と行かないと自分自身に誓っていた。
嫌な思い出が蘇る。
誰もいない公園にブランコにゆられる阿部がいた。
「元希さん、遅いな。」
時計をみると23時をまわっていた。
「ーーーー……!!!」
遠くから声がした。
小さな影が近づいてくる。影の主は榛名元希だった。
「いや~。悪ぃ。悪ぃ。」
頭をかいて笑いながら謝る。
「1時間も待たされたんですよ!?少しは俺の身にもなってみて下さいよ…ハァ。」
「そんくらい、気にすんなよな。」
「…で、何か用ですか?」
阿部はぶっきらぼうに聞く。
榛名は阿部が座っているブランコの前に立った。
「俺、武蔵野行くことにした。」
「それだけですか…?」
阿部はそれだけのことで1時間も無駄にしたのか、とブツブツ独り言を喋る。
「タカヤはさぁ~。“俺もそこに行きます!”とかねェ訳?」
「ないですね。」
「タカヤは俺のこと嫌いか?」
「好きか嫌いかってゆーと…嫌いです。でも…。」
何かを言いかけ俯き黙ってしまった。
「嫌い…でもナニ?」
榛名が聞き返すと阿部は赤面した。
「ーーー……ッ。そ、ん……け…ぃ……ーーしてます。」
小声にもかかわらず榛名はなんとなくわかってしまった。
榛名の胸の中でキュンと音がなった。
ーーーータカヤが誰かと仲良く喋るのがムカつく。
誰にもタカヤを渡したくない。
たとえ、タカヤ自身は俺のことを嫌ってようがかまわない。
タカヤを俺だけのものにしたい。
タカヤへの独占欲が俺を支配する。
気づいたら抱きしめていた。
「え!?もっ…元希さん!?」
「タカヤ…。」
榛名は阿部の耳元で囁いた。
「離してくださいっ!元希さんっ!!」
阿部は腕の中であばれる。
「ごめん。少しだけ…。」
榛名はか細い声で謝った。
「……ぇ?」
ふいに唇を奪われた。
「んっ。」
ーーーーわけわかんねェ。何で今、タカヤにキスしたのか…。
でも、理性が押さえきれなかった。
そして、俺はタカヤを泣かせてしまった。
阿部は自分の口に手を当て考えた。
あの日。なんで、キスされたのか…と。
「さぶっ。」
今夜は少し肌寒かった。
公園には榛名がいた。
小走りで榛名のもとへ向かう。
「元希さんっ!」
「おせぇよっ!!」
榛名の躰は少し震えていた。
いつからここにいたんだろう、と考えてしまう。
そして、またあの日のように抱きしめ、耳元で囁いた。
「好きだ。離したくない。」