六花
しんしんと降り続ける雪は、まるで心を眠らせているようだ、と思う。
柔らかな綿毛のようなその身で、優しく心を覆っているのだと。
微睡みの中で、政宗は微かな音を聞いていた。
雪だ、と、意識の底で思い、その名称の響きで無意識に身体を震わせる。
きゅ、と小さく身を縮めると、逞しい腕が政宗を抱き寄せた。
「寒い、ですか?」
耳許で紡がれた言葉に、縮んだ身が軽く弛緩する。
「…No…」
小さく呟き、政宗は広く温かな胸の中に顔を埋めた。
とくん、とくん、と、規則正しい心音が心地好く耳に響く。
「…あったけぇ…」
小さく紡ぎ出された言葉が、掠れて消える。
大きな手が、掛布を政宗の耳許まで引き上げ、微かな雪の音を遮った。
「…雪の音が…」
そう呟くと、頭上で小十郎が小さく声を漏らしたのが聞こえた。
「雪の音が、どうされましたか?」
「…聞こえなくなった…」
「…そうですか」
「…ん…」
ふわふわとした意識の中で短く答えると、背を抱いていた手が政宗の髪を優しく撫でた。
背から消えた温もりに若干の物足りなさを感じながらも、髪を撫でられる心地好さに酔いしれる。
「……小十郎……?」
「はい」
耳許で低く響く、声。
政宗は口許で軽く握っていた手を、小十郎の背に回した。
「……何処にも行くな……」
「ここに居ります」
髪を撫でていた手が、そのまま政宗の頭を引き寄せる。
「ずっと、政宗様のお側に居ります故」
「……You promise……?」
「はい」
政宗は満足したように、ふわりと笑みを浮かべた。
「……お眠りなさい……まだ夜は明けませぬ故……」
その言葉を遠くで聞きながら、政宗は再び意識を深淵へと沈めて行く。
その夜、政宗は大層幸せな夢を観た気がした。
降り積もる雪が、柔らかく心を包んで行く。
それは、雪のように真っ白に、心を染めて行った。
Fin