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直截にして平易

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 新しい玩具をもらった子供みたいな表情で、ソードマンは銀のリングを眺めた。護符ではないそれは、ヘンに華奢でもろいもののようにも見える。飾り気のない銀色のリングの内側をのぞきこみ、彼はほんの少し眉をよせた。
「……日付、は? ていうか結局ヘンな言葉で入れたの?」
 指輪の裏側に掘られた文字らしきものの並びは、彼の知るものではない。数字らしきものも見当たらず、自分のリクエストとは違った内容と推測し、ほんの少し不機嫌な声でそう尋ねた。
「自分のを自分でつける気か」
「あ、そっか」
 そういえば、同じシンプルなリングではあるものの、ほんの少し形状が違う。飾り気がなさすぎるほどの簡素なリングではなく、よく見ると植物のものらしき意匠が取り入れられている。そして、さらに言えば、サイズもいくらか違うことに気づいた。
 じゃあおれのは? と。不安げに尋ねられ、アルケミストはポケットからもう一つ銀の指輪を取り出した。そして、面白くもなさそうな表情でソードマンへと渡す。
 そちらの裏側には、最初に指輪を渡した日付と、自分からアルケミストへと平易な言葉でほられている。さすがにリングの内側を一周しかねないほどの長さではあったが、確かにリクエスト通りの内容だった。
 あっさりと表情を嬉しそうなそれに変化させると、ソードマンはアルケミストに自らが選んだ指輪を返した。そして。
「……じゃあ、アンタのはなんて書いてあるの?」
 それには答えず、アルケミストはソードマンの手をとった。そして、指輪を渡すようにと要求する。左手の薬指にごく丁寧な手つきではめると、口元を歪めひどく人の悪い笑みを浮かべた。
「学べ」
「いいよ、誰かに聞くから」
 胸をつかれたようなじわりと広がる感動に投げ入れられるひどく意地悪な言葉に、ソードマンは眉を寄せた。そして、拗ねたような口調で、教えないという意味の短い言葉に反抗する。だが。
「マリッジリングだというなら、外すと契約の意味は取り消されるな」
「……え?」
 面白そうな口調に、彼の先ほどの行為の意味を悟り、ソードマンは息をのんだ。
「って……って、ちょっと待ってよそれ! マジでなんて書いたんだって!」
「だから学べといっている」
「おぼえてない!」
「残念だったな」
 外すなよ、と。そういって面白そうな笑い声をあげると、アルケミストはさっさと彼に背を向けた。



 さらに数日後。自らに対してはリングを外すなといったアルケミストが、贈った指輪をはめていないことを発見することとなる。どういうことだと詰め寄る彼に対し、アルケミストはこともなげに言った。
「サイズが合わん」
「……え?」
 端的な回答に、自らの致命的な失態を悟ったソードマンは青ざめた。そして、もう一度、今度はサイズも含めてリベンジさせてくれと土下座した。だが。いくつも渡しては意味がないだろう、と。新しいそれを受け取る気はないとあっさり宣言され、頭を抱える。
 その後、彼が指輪を持ち歩いていることだけは確認できた。が、左手の薬指とは言わずとも指にそれをはめている姿を見ることはかなわなかった。



fin.
作品名:直截にして平易 作家名:東明