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魔法の手

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大佐の手は、不思議。

あったかくて、優しくて、ドキドキする。

髪を撫でられたり、頬に添えられたりすると、何か擽ったくて体がぴくん、とするけれど、でもそれが何処か気持ちいい。

きっと、大佐の手は魔法の手なんだ。

俺の手なんかとは、全く違う、魔法の手。

俺の手は、冷たい破壊の手だから。

「エドじゃねぇか。どうした?こんな所で。」

不意に頭上から降って来た声に顔を上げて見れば、ハボック少尉が俺を見下ろしていた。

「ハボック少尉こそ、どうしたんだよ?」

そう言葉を返すと、ハボック少尉は俺の隣に腰を降ろし、俺と同じ様に木に背を預けた。

「ここは俺の取って置きの場所なんだよ。」

そう言って、ハボック少尉は胸ポケットから煙草を出した。

何処かの飲み屋のマッチで煙草に火を点け、ぱちん、とマッチを弾いてその先に点っていた火を消した。

ふわり、と、硫黄の匂いが鼻を擽る。

「俺、マッチの匂いって好きだな。」

俺がそう言うと、ハボック少尉は「そうか?」と言葉を漏らし、嬉しそうに笑った。

ふと、ハボック少尉の、煙草を持つ手が俺の目の前を通り過ぎる。

大きな、逞しい手だ。

大佐の手とは違うけれど、俺はハボック少尉の手も、好きだなぁ、と思う。

俺がハボック少尉の手を目で追っていると、それに気付いた少尉が、不思議そうに俺と自分の手を見比べた。

「何だ?」

「え?あ・・・いや・・・」

不意に聞かれて、思わず答えに戸惑う。

「ん・・・と・・・手が・・・」

「手?」

「少尉や大佐の手は、俺の手とは違ってあったかいなぁ・・・と思って・・・」

ハボック少尉は、自分の掌を見詰め、そうして俺の手に視線を移した。

「俺は別に、お前の手が冷たいとは思わねぇぜ?」

「・・・ほんとに・・・?」

予想もしなかった言葉に、俺は思わず言葉を零す。

「繊細で、力強くて、あったかい手だと思うけどな。お前の手。」

いつものようにさらりと紡ぎ、そうしてハボック少尉は、にっ、と、笑って見せた。

「・・・なんかでも・・・それっておかしくない・・・?繊細で力強いって、意味解んないし・・・」

「そうかぁ?でも何か、そんな感じするんだけどなぁ。」

そう言って、ハボック少尉は空に向かってふぅっ、と煙を吐いた。

「あったかいってのは、何も体温の事ばかりじゃ無ぇのさ。」

煙を吐いた状態のまま、空をぼんやりと眺めるようにしながら、ぽつりと。

「お前の言う、大佐の手と同じように、お前の手はちゃんとあったかいよ。」

少尉の言葉に、俺は自分の右手に視線を落とした。

「この手が・・・あったかい・・・?」

この、冷たい手が?

大佐と、同じように?

「・・・違う・・・だって大佐の手は・・・魔法の手だ・・・」

「魔法の手?」

俺が思わずぽつりと紡いだ言葉に、ハボック少尉が聞き返した。

「え・・・あ・・・え・・・っと・・・」

何と答えようか、一瞬迷った。

でも、ハボック少尉は俺と大佐の事を知っていたので、俺は素直に言葉を紡いだ。

「大佐の手は・・・あったかくて、優しくて、ドキドキするんだ・・・だから・・・大佐の手は、魔法の手なんだ・・・」

少尉は俺の言葉に眉を上げて見せ、くっ、と喉を鳴らして笑った。

「そりゃお前、お前にとって大佐が特別だからだろ。」

そう言って、ハボック少尉は俺の右手を取った。

「俺にしてみりゃお前の手だって魔法の手だし、俺自身の手も魔法の手だ。」

「え・・・」

俺の手が・・・?

「例えば、だ。大切な誰かが泣いていれば、その手で涙を拭ってやる事も出来るし、髪を撫でたりもしてやれる。それって

その大切な誰かにとっちゃ、魔法の手なんだよ。」

何か、目から鱗が落ちた落ちた気がした。

あぁ、そうかと納得した。

試しに俺は、俺の手に添えられたハボック少尉の手を取り、大佐がいつもしてくれるように、自分の頬に少尉の手を触れ

させてみた。

少尉の手はあったかくて優しかったけど、大佐の時みたいにドキドキはしなかった。

「・・・ほんとだ・・・」

ぽつり、と零せば、少尉は「だろ?」と返した。

そうして「でもその反応もなんか微妙だけどな・・・」と小さく続けながら、新しい煙草を口に咥えた。

瞬間、ハボック少尉の咥えた煙草がぼうっ!と燃え上がり、真新しかった煙草が長い灰になって、ぽとり、と、地面の上に

落ちた。

「・・・流石に魔法の手だな・・・」

少尉はそう言いながら、ゆっくりと上を見上げた。

「観てみろエド。お前の魔法の手の持ち主がご立腹だ。」

その言葉に少尉の視線を追ってみれば、建物の上の方の窓に大佐の姿が見えた。

眉間に皺を寄せて、こっちを見下ろしている。

「お前にちょっかい出すなってさ。」

少尉は可笑しそうに笑みを漏らしながら、ゆっくりと立ち上がった。

「煙草だけで済んでる間にとっとと退散するよ。」

少尉は「じゃあな」と手を挙げ、楽しそうに鼻歌を歌いながら行ってしまった。

もう一度、建物を見上げてみると、大佐の姿はまだそこにあった。

俺は両手を伸ばし、大佐に向かって大きく手を振った。

太陽の光を受けた機械鎧の右腕が、きらり、と光った。



                                   Fin.
作品名:魔法の手 作家名:ゆの