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璃琉@堕ちている途中
璃琉@堕ちている途中
novelistID. 22860
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the sacred prison

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湿っている。閑まっている。
まるでこの世界には、私と彼しか存在しないようだ。
けれど、絶え間なく落ちる、胎動にも似た水滴のざわめきが、そうじゃないんだと警告する。呑まれるなと、囁く。
脱獄自由の檻の中、私は意味がわからないと知りつつ、呟いた。

「終わらせるのは、きっと至極簡単なんでしょう」

私も彼も、その気がないことだけは、明白だ。

「逃げてしまえば良いんだわ」

私も彼も、この檻に留まり続ける。誰も妨げやしないのに。

「貴方、どうするの」

隣で目蓋を閉じたままの彼は、応えない。それはそうだ。返す意味がない。

「私、どうすれば良いのかしら」

どうもこうもないわけだが、一応、訊いた方が良いような気はした。
気づいた瞬間には、手遅れだった。取り返しがつかなかった。
もう、どうしようもなかった。
―――見誤るな。
それだけなのだ、つまりはそういうことなのだ。

「無理よね、私も貴方も」

この世界は、優しくなんかない。

「臆病だもの」

どうしようもなく、無慈悲だった。
応えない彼の肩に、頭を乗せてみた。何だか収まりが悪くて、思い切って身体を寄り添わせた。

「ごめんなさいね」

心がダメなら、せめて。
扉の閉まった檻に鍵が掛かり、窓の外を世界が流れ出した頃、彼に倣い目蓋を閉じた私の耳朶を吐息が擽った。

「隣にいよう」

湿ったそれは恐怖でもあったけれど、

「いつか、終わらせる瞬間まで」

唯一無二の、救いでもあった。
"その"後なんて私と彼には用意されない。されるわけがない。それでも、

「次は、幸せになりたい」

叶うなら、始めからやり直したい。

「俺は、結構救われてるけどね」

私は、微笑んでくれる彼を、大切にしてあげられる私になりたかった。
目覚めたら二人きりだったなら、二人ぼっちだったなら。
ぼんやり想いつつ、彼に倣い、私はもう口をきかなかった。
―――終点まで、いくしかないのだ。





『the sacred prison』