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葛藤

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見下ろすは己の学園。見下すは物質界の人間ども。
愚かと嘲りながら、その愚かさに好奇心を隠せない。
そう思い過ごしてきた、人間達に比べたら気の遠くなるような時間の果て。
けれど、今でもそう思うのかと聞かれたら。メフィストは鼻で己自身を嗤った。

「もしもお前が今の私の姿を見たら・・・腹を抱えて笑い出すかもな」

メフィストはそう言い残すと、マントをひらりとはためかせ、夜の墓地を後にした。
墓前にはいつの間にか、その墓に眠る故人が愛した煙草とビールがおいてあった。


メフィストはスタスタと、とある薄暗い路地に面しているビルの裏口の前に立つ。
徐に指を鳴らすと、一つの鍵が姿を表した。その鍵を何の躊躇いもなく裏口の鍵穴に差し込む。
すると錠が開いて扉が開く。にたり、とメフィストは嗤った。
そこに広がるのは目にいたい色で構成された、メフィストの自室。
その部屋にメフィストは足を踏み入れ、扉を閉めた。

「おかえりなさい兄上」

「いたのか、アマイモン」

メフィストはため息を吐きながら、勝手に椅子に座り込んでお菓子を広げながら食べている弟の頭を叩く。

「痛いです」

表情など一切変えずに、アマイモンは叩かれた頭をさすりながらメフィストを見上げた。

「散らかすなとあれほど言っていたのに、散らかしているお前が悪い」

「違います。僕じゃない。僕はただ後片付けをしていただけです」

アマイモンは菓子を頬張りながら、ある一室の扉を指さす。

「今は寝ていますけど・・・。さっきまで散々暴れてたんですよ」

「・・・ほう」

メフィストはそう言うと目を細め、その指さされた扉の方を見た。

「兄上の力で、『破壊のために壊されたものが全てお菓子になる』呪文をかけていなかったら、
 この部屋瓦礫だらけでしたね」

アマイモンはそう言いながらまだ菓子を食べている。

「・・・随分、お前もアレに懐いたようだな」

「何のことでしょう」

アマイモンはこう見えて、どうでも良いものには関心を寄せない。
どうでも良いものに対して、心配ということなどするわけがない。

「気がついていないのなら、まぁ、いいです」

「兄上」

「なんですか、アマイモン」

「・・・元気ないあいつは、あいつらしくないので、早くどうにかしてくださいね」

「ふ、お前にそんなことを言われるとは思いも寄らなかった」

「お願いします」

アマイモンはそう言うと、手下達をその場で召還し、
瓦礫という名の菓子を全て集めさせ、椅子から立ち上がった。

「それでは兄上。私はこれにて」

恭しく頭を下げ、姿を消した弟にメフィストは一瞥をするだけだった。
そして、一直線に己の寝室へと向かう。向かう途中で邪魔な帽子も、マントも、上着も全て消した。
寝室の扉を開けると、薄暗い部屋の中でも分かるほどベッドの上にふくらみがある。
そのふくらみが規則正しく上下に動いていることに、メフィストは無意識のうちに気を緩めた。
音を響かせないようにそのふくらみの側まで歩いていく。
ベッドが沈まないように宙に軽く浮きながら、ベッドの端に腰掛けた。
そっと、そのふくらみをどけてみる。

「・・・おやおや、無防備ですねぇ」

あどけない顔で寝ているのは、己の末弟。人として、育てられてきた魔神の落胤。
そして、自分が唯一友人と呼んでいた藤本の忘れ形見。
多くの名前が、このメフィストの寝室で寝ている子供について回る。

「そう、君はまだ子供なんですよね・・・」

メフィストは軽く顔に掛かる髪の毛を払いのけてやる。
学園に、上級悪魔でさえ配下におけるほどの力を発現させた事がばれてから一週間。
バチカンも動きだし、エクソシストになる前に殺せとの命令が下った。
この部屋で眠る子供にとって、今や世界の全てが敵になってしまったのだ。
それからずっとメフィストはこの部屋でかくまってきた。けれど、そろそろ限界だと考える。

「このまま、あちらの世界へ連れて行ってしまってもいいのですが・・・」

物質界とは合わせ鏡のように存在する世界。そう、メフィストには出来る。
出来るのだ。「連れて行く」事が。
しかし、どうしても後一歩が未だに踏み出せないでいた。
藤本が人として生きろと望んだ相手を、自分の勝手な思いで悪魔にしてもいいのだろうか、と。
親友の真剣な横顔が今でも思い出せる。

「奥村燐くん・・・君はどうしたい?」

すやすや眠る相手に問いかけても答えなどあるわけがない。
それでも、メフィストは問うた。愚かな質問を。
連れて行かねば、殺される運命にある末弟。
長い長い間、人間達に肩入れし続けていたけれどもこんなに心かき乱された存在。
その命を奪おうとしている相手に、みすみす渡したくなどない。

「許せ、とは言わないよ藤本。
 全て・・・この子供に降りかかるもの全ての罪は私が請け負うとしよう・・・」

友人達と、弟とも引き離されて涙で濡れる頬にそっとメフィストは唇を落とした。

「共に参ろうか・・・深い深い、闇色の世界へ」

メフィストの瞳が静かに、その瞼に閉じられた。


作品名:葛藤 作家名:霜月(しー)