「などの供述を繰り返しており、」
7月の23日の夜、水を飲みに立った台所にアツヤが居たんです。最近暑いので、夜中に寝苦しくて目が覚めるのはよくあることでした。アツヤというのは僕の弟です、尤もずいぶん小さいころに事故で、あご存じなんですか?はい、いいえ全然。大丈夫です。あの夜の僕はアツヤが死んだ事なんかすっかり忘れていました。そのままアツヤを追って外へ出て、かなり歩いたと思います。全然疲れませんでした。アツヤのうなじをあんなに注視したのは初めてで、僕のうなじもあんな風に見えるのか、と思いました。アツヤと僕は双子で、ああご存じなんでしたね。そうなんです。ずっと一緒だった。……すみません、ええちょっと、大丈夫です。空が菫色に染まり始めたころには海沿いの広い道を歩いていました。夏の朝はあんな色で明けるんですね。見とれていたらアツヤをそこで少し見失って、けれどすぐに近くのおおきな建物が呼んでいる感じがしたんです。重い扉をゆっくり開けると中は暗くてひんやりしていました。ええ、聞きました。あの日は鍵が掛かっていたはずだって言うのも、一人で開けられないっていうのも聞きました。何でですかね、僕にも分からないです。アツヤが開けておいてくれたのかもしれない。瞬く間に七月とは思えないほど爪先が冷えました。ここは僕のうちだ、と思いました。ああ、そういう意味じゃないです。勿論。それは流石に。ずっとここに居たい、ここで眠りたいって思いました。指先がかじかんで歯の根が合ってないのも分かってたんですけど、折良くパジャマを着ていたのでそのままそこの床で眠りました。見付けて下さって本当に感謝してます。きっとあれはアツヤの形をした何か別の悪いものだったんだと思います。はい。え?7月25日だと思います。あのう、所ですみませんがちょっと冷房が弱くありませんか?ああ、いえ、すみません。ありがとうございます。
作品名:「などの供述を繰り返しており、」 作家名:あおい