はぴば!
とドスのきいた声がうつ向いた金髪の下から聞こえてきた。
殴る前に「歯をくいしばれ」と宣告されているかのように聞こえるのは気のせいか。
いやしかし。
約束を反故にされて拗ねていたのは確か自分の方だ、とロイは思いを巡らせた。
一ヶ月ほど前からあの手この手でなだめ透かし、数日前の自分の誕生日にはここに戻ってきてくれるよう、日頃寄りつかない子供との約束をやっとの思いで取り付けたのだ。
しかし浮き浮きと迎えた当日、待てど暮らせど訪れるどころか電話の一つもないままその日が過ぎ、そのままはや数日が過ぎていた。
ようやく訪れた子供は相変わらずの可愛いげのなさで、つい――プレゼントをくれなければ報告書を受け取らないなどと言ってしまったのだ。
彼が用意できていないのを知りながら。
本当は当日戻ろうと努力してくれたことも、プレゼントを買おうとしてくれていたことも、けれど不測の事態に巻き込まれてどちらも果たせなかったことも知っていたのだけれど。
(拗ねに拗ねまくって仕事にならない上官を見かねた心優しい部下達が調べて報告してくれた―主にエドワードに対しての優しさだったが)
なのに赤くなったり青くなったりしながら報告書を押しつけようとしてくる表情が楽しくてさんざんに突っぱねていたら、今度はエドワードの方がぶちきれてしまったのだ。
「可愛い顔が台無しな声だぞ?鋼の」
などと言ってみるが見上げてくる金の眼はこれ以上は不可能であろうというほどつり上がっていた。言葉も出てこないほど怒り心頭といったところか。
これはさすがにやり過ぎたか、とほんの少々だけ反省したロイは子供の機嫌をとる方に方向転換することにした。
ほんとうはこうやって無事に戻ってきてくれただけでも嬉しいことなのだ。
無言でいう通りにしろと語ってくるきついまなざしにわざとおどけた調子で、
「はいはい仰せのままに」
と返すと、左頬が腫れるのを覚悟で目を瞑ると子供の背に合わせるよう屈みこんだ。
衝撃を最小限に抑えられるよう、しかしうっかり避けきってしまわぬよう微妙なバランスを取りながら。
しばらくの迷うような気配の後、いよいよ近付いてくる気配を感じ身構える。
「・・・happy birthday」
衝撃は来た。頬には柔らかな、耳には甘やかな、心臓には突き抜けるような衝撃が。
思わず目を見開くと一瞬で離れていこうとする体を脊髄反射で捕まえる。
「ちょっ、離せ!」「やだ」「!やだってあんた・・・」
国軍大佐のあり得ない言い様に、気が抜けたように動かなくなったエドワードをこれ幸いと腕に囲いこむ。
「もう一回」「え!?ど、どれを?」
「目を瞑っていたからキスされたのかわからなかった」「わかってんじゃないか~~」
「エド?」「それ反則・・・」
これ以上ないほど真っ赤な顔を隠すようにロイの胸に額を押しつけてくるのに、もう休戦しようかというようにぽんぽんと頭を叩いて伝えると。
それでも珍しく離れていかずに「約束守れなくてごめんな・・・」なんてつぶやくから。
後でこれだけは伝えておかなければ。
君が無事に帰ってきたことが何よりの贈り物だと―