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【T&B】6/26兎虎新刊サンプル

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下町に程近い、静かな住宅街の一角に虎徹の家はある。
遠慮するな、と言われて招かれた家の玄関をくぐったところで、バーナビーはふと思った疑問を口にした。

「ご家族に迷惑なんじゃないですか?」

「ここに住んでるのは俺だけだよ」

「…娘さんは」

「娘は俺の母親に預けてる」

問いかければ、簡潔な答えが返ってくる。
回答内容からして事情があるのは察したが、やはり妻のことについては聞けなかった。
離婚なのか、死別なのか。それ次第では彼にとっても回答しづらい質問になるだろう。

「服はすぐ洗濯するから、ランドリーにぶち込んどけ。タオルは置いてあるから」

一人暮らしが長いのか、虎徹は手馴れた様子で指示をして自室から持ってきたと思われる着替えを渡してくる。
そのままバスルームに閉じ込められてしまったので、バーナビーは諦めてシャワーを借りることにした。

バスルームに揃ってる生活用品の類も、虎徹が使っていると思われるものしかなく、女性が住んでいるような様子はない。
彼の言うとおり、ここには本当に彼一人で住んでいるようだ。

(…あれだけ娘を溺愛してる割に、一緒には住まない。分からない人だ)

シャワーを頭から浴びながら、バーナビーはふと考える。
そういえば、以前聞いた話では、娘に仕事のことを明かしていないと言っていた。
一緒に住んでいると仕事のことを隠しきれない、ということなのだろうか?

(いや、そうだとしても)

それは、同居しない理由にはならないような気がする。
あと考えうる可能性。
それは、彼の妻に起因している、という可能性だろう。
離別にしても死別にしても、この仕事をしている限り、虎徹一人では娘の身の回りの世話ができない。
その為の一人暮らしなのだとしたら、いかにも家族を愛していそうな彼らしくない選択だと思う。

四歳からずっと一人のバーナビーにはもう長らく縁のない感覚だが、家族というのはやはり特別なつながりのある人間関係だ。
勿論家族の形というのは様々だし、この仕事のために家族と離れているのは虎徹一人ではないだろう。
だが、彼のように他人をこれでもかというほど構い倒し、世話を焼きたがる性格の人間ならば、多少無理をしてでも家族と共にいたがるのではないだろうか。

事実、彼は娘の事を何より大事に思っている節がある。
そんな彼が、娘の傍を離れてでもヒーローを続けている理由が、バーナビーには分からなかった。




バスルームから出ると、そのままリビングを目指す。
先ほどは背中を押されてすぐにバスルームに押し込められたのでまともに見られなかったが、リビングは一人暮らしの割にすっきりとまとまっていた。
棚には家族の写真と思われるものが並んでいたが、数枚の写真立ては何故か伏せられている。
目に入るのは娘の写真か、娘と虎徹とが写っている写真のいずれかだったから、恐らくは家族写真や妻の写真が伏せてあるのだろう。

(こういうところまで気を遣う必要はないんですけど、ね)

キッチンでなにやら作っているらしい虎徹の背中を見ながら、バーナビーはため息をつく。
余計なお世話だが、気持ちだけはもらっておこう。
譲歩してそう考えられる程度には、虎徹の行動を許せるようになっていた。そんな自分に、少しだけ驚く。

「おう、上がってたのか」

「ありがとうございました」

「飯作ったんだけど、食ってくだろ?服乾くの待ってたら遅くなっちまうし」

「――――そう、ですね。じゃあ、いただきます」

本当は食べる気にはならなかったのだが、せっかく用意されたものを食べないのも失礼な気がしたので、社交辞令的に答えた。

「っと、その前にちゃんと髪乾かさないとな」

首の近くまで水がはねていたので、髪も念のために洗ったのだが、髪質が少し乾きづらいらしく、ある程度乾かしたつもりでもまだ濡れている。
目敏く気づいた虎徹が、バーナビーの肩に乗っていたタオルを取ると頭へと持っていった。

「おー、髪柔らかいなお前」

「おじさんに比べたらそうでしょうね」

彼は、放っておけと言ってもあれこれと言い返してきて結局手を出すのだ。
ならば最初から諦めてしまうのがいい、と判断したバーナビーは、虎徹のしたいようにさせる。

「ドライヤー…するほどでもないか」

暫くしてから、よし、という声がタオル越しのくぐもった音として聞こえたかと思うと、先ほどよりも湿気を多く含んだタオルが頭から離れていった。


少し冷めちまったけど、と前置きをして虎徹がテーブルに用意したのは、ライスと具材とを混ぜて炒めた料理だった。
料理の名はピラフだと彼が言ったが、バーナビーにとってはあまり馴染みのない料理である。
外ではあまり分からないが、こういう細かいところで、彼との育ちや人種の違いを感じさせる。
単に、バーナビーがこういう料理に縁がなさすぎるだけなのかもしれないが。

「あ、先食っててくれ」

そう言って、虎徹はバーナビーに席につくよう促してから、手早くネクタイを解いた。

仕事で着替えている際によく見かける、特に珍しくもない光景だったが―――オフで、しかも彼の家という場所のせいか、妙に新鮮な印象を受ける。
そのままベストも脱ぎ、簡素なシャツ姿になってから、虎徹は改めてテーブルにつく。

「よし、いただきます!」

「……いただきます」

「なんだ、まだ食ってなかったのかよ」

虎徹の掛け声で、バーナビーははっと我に返った。
誤魔化すように同じ言葉を呟くと、虎徹が意外そうな顔をする。
しかし「あなたの着替えを見ていたからです」だなんて言える筈がない。

「先に食べるのも、と思ったので」

「お前、変なところで律儀だよなあ」

適当に誤魔化したら、どうやらうまくいったらしい。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、ピラフを口にする。

「思ったより上手なんですね、料理」

「まーな」

曰く、作った方が安上がりだし栄養バランスにも配慮しやすいという事らしい。
体調管理がしっかりできてこそのヒーローだ、と、胸を張る様子は何処となく子どもっぽいが、彼の言っている内容にはなるほどと思えるところがある。
実際、ヒーローという職業は身体が何よりの資本である。
健康かつ強靭な身体があって初めて、犯人に立ち向かうことができるのだから、当然といえば当然の論理だ。
言い方は軽いが、十年もの間ヒーローを続けているだけあって、言葉自体には深みがある。
バーナビー自身もこの点は意識しているのだが、改めて言われると、より一層気をつけなければ、と思う。

(優秀かどうかは置いておいて、こういう点は尊敬してもいいのかもしれない)

本人には絶対言うつもりはないが、こっそりバーナビーは感心する。

「―――…!」

たまには仕事に関係のない話でも振ってみようか、と口を開こうとしたタイミングで、よりにもよって会社の関係者からの電話が入る。
コール主はアレキサンダー・ロイズだ。
虎徹に視線で断りを入れてから、すぐに電話に出た。