22のキス
額
幼なじみ、と言われる間柄。
年が少しばかり離れていたが、お互い気にすることはなかった。
いつも一緒で、何をするにも正臣の側を離れようとしなかった帝人。
大切に大切にしてきたのは、自分が一人っ子で弟が出来た様な感覚だとずっと思っていた。
けれども、違った。そう、中学校に上がった正臣は思い始める。
「正臣、正臣」
年に似合わない舌っ足らずな声で呼ばれる度に、あぁ、自分はおかしくなったのかと自覚する。
側にいるのが辛くなり始めたとき、両親が都会の高校を薦めてきた。
逃げ、だと理解している。
しかし、幼い自分ではきっとこの感情をぶつけるだけぶつけて、帝人を壊してしまいそうで。
「・・・かっこわるいなぁ、俺」
誰に言うでもなく、高校の受験会場の前で独りごちた。
そして、正臣は東京の学校に合格し、進学することが決まった。
「正臣・・・!行っちゃうの!?行っちゃうの!?」
「あぁ、ごめんな帝人。・・・泣くなよー行きにくくなるじゃん。な?」
「うぅ・・・」
柔らかい髪質の頭を撫でてやりながら、正臣は決心が揺らぎそうになる自分を戒める。
「これで一生のお別れって訳じゃないんだぜ?夏休みになればちゃーんと帰ってくるしよ」
「ほ、本当!?本当の本当だね!」
正臣の言葉を聴いて、途端に顔を上げ目を煌めかせる帝人に、
正臣は苦笑をそのままに、少し力を入れて帝人の髪をなで回した。
「おう!本当の本当だ!・・・じゃ、行ってくる」
「・・・・うん・・・」
正臣は目元を柔らげて帝人を見つめた後、他に見送りに来ていた家族に目配せをして、
東京行きの電車に足を乗せた。
それから数年後。
「きちゃった正臣」
悪戯が成功したかのような笑みを浮かべながら、
去年まで正臣が着ていた制服と同じ物をまとっている帝人を、正臣は凝視する。
「・・・え?」
「え?じゃないよー。僕、今年からここの生徒だから」
「あ、・・・えっと・・・」
「大学も結局こっちにしちゃったし。僕から会いに行かないといけないかなぁって思って」
驚いた?と訪ねてくる帝人に正臣は何度も瞬きを繰り返す。
「ねぇ、正臣。僕に何か言うことあるでしょ?」
「えっと・・・、なんでしょうか帝人」
「√3点」
帝人は一度ふくれっ面をした後、すぐにまた笑みを零した。
そして自ら正臣の胸に飛び込み、背中に腕を回す。
「み、帝人!?」
正臣は肩を跳ねさせ、抱きついてくる帝人の背中に腕を回しても良い物かと、
手を右往左往させていた。
「おめでとうって言って」
「へ?」
帝人は上目遣いをしながら、ふわりと微笑んだ。
そして、もう一度その口を開く。
「僕におめでとうって言ってよ。ここまで追ってきたんだから」
帝人の言葉に正臣は一度目を見開くと、すぐにくしゃりとした笑みを浮かべた。
「帝人にはなぜだがお兄さん敵わないなー」
「ふふ、そうだよ。僕には絶対正臣、敵わないんだから」
正臣は宙に浮かせたままだった腕を帝人の背中に回した。
「入学おめでとう・・・帝人」
「ありがとう。正臣」
正臣は破顔すると、真っ白な帝人の額にキスを送った。
額:祝福、友情