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長い道

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外の世界は太陽に照らしだされて非常に明るい。
「あー、あちーなァ」
隣を歩いている銀時がだるそうに言った。
その癖毛頭は光を浴びて、きらきらと輝いている。
綺麗だ、と桂は思った。
けれども、そんなことは言わずに別のことを口にする。
「文句を言うな。だいたい、外に俺をつれだしたのは、おまえだろうが。それに、俺はおまえから目的地を聞いておらぬ」
さっき、潜伏先として借りている長屋に銀時がやってきて、部屋の畳に腰をおろすことなく、ちょっとつきあえと言い、桂を外につれだしたのだった。
「目的地なんざ、着いてみりゃわかるもんだろ」
「そんなのあたりまえだ」
言い返してきた銀時に、桂は言い返した。
しかし、銀時はそっぽを向いている。
目的地を言うつもりがないのは、あきらかだ。
「……あちーな」
銀時がつぶやいた。
時刻は午に近い。
空がくもる気配はまったくない。
これから、どんどん気温はあがっていくのだろう。

目的地は飲食店だった。
銀時のあとに続いて桂は店に入った。
店にはテーブル席もあるが、座敷席のほうに行く。
桂は履き物を脱いで座敷席にあがり、用意されていた座布団に正座した。
机の向こうでは、銀時があぐらをかいている。
この男に礼儀作法を求めてもしかたない。
幼い頃からずっと変わらないのだから。
そう思い、ふと頭をよぎるものがあった。
昔のこと。
だが、すぐにその光景を消し去る。
ここは特に改まった場所ではないのだ。他の客の迷惑にならない程度に楽にすればいい。
桂は品書きを手に取った。
さっと見ただけで、注文するものは決まった。
「俺は」
「ソバだろ」
あっさりと銀時に言い当てられた。

それぞれが注文をしたものを食べ終わった。
銀時は横を向いて黙っている。
しばらくして、その口が開かれる。
「誕生日、おめでとう」
ぶっきらぼうに告げた。
「ああ」
桂はうなずいた。
外につれだしたのは、ソバの置いている店にきたのは、そういうことだろうとは見当はついていた。
こちらを見ない銀時の顔を眺め、桂はふっと笑う。
照れくさいのだろうと思う。
こういうところも、昔から変わらない。
照れくさくても、それでも、生まれてきたことを祝おうとしてくれる。
ささやかなことだが、心が温まる。
「俺も、またひとつ歳をとったということだ」
桂は思いついたことをそのまま話す。
「けっこう長く生きてきたと思う。そのあいだに、いろいろなことがあった。良いことも、嫌なことも、できることならやり直したいと悔やんでいることもある。失敗した、間違ったことも、たくさんある。俺がこれまで歩いてきた道は、きっと正しくはないんだろうと思う」
正義を掲げているが、それが正義だと信じてはいるが、それは皆を率いる立場にあるからこそだ。
立場を離れれば、自分の歩んできた道は間違いだらけのように感じる。
「だが、もし何歳かからかやり直すことができたとしても、俺は、同じ間違いを、同じ失敗をしただろうと思う」
不思議なことだが、ありえない想像の中ですら、そうなるのだ。
もしも、あのときにもどったら。
結局、自分は同じ行動をしただろう。
そう思うのだ。
「失敗も、間違いも、本来はいらないもののはずなのに、結局は、いるものなんだと思う」
心の底から悔やんでいることもある、けれど。
それすらも自分の一部だから。
切り離すことも、捨てることも、できない。
「おまえとも、よく喧嘩をしたし、長く会わなかったこともある。正直、もう縁が切れたと思ったときもある。いろいろあった」
別の相手を、と考えたこともある。
「だが、その全部が今につながっている。だったら、今につながっているのなら、まあ、いいかと思う」
ようやく銀時がこちらを向いた。
「銀時」
その眼をじっと見て、告げる。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
この日に、というだけではない。
これまで生きてきた長い道、そのすべてではないが、長く一緒にいた。
間違い失敗する自分と一緒にいてくれた。
一緒にいてくれたのが銀時で良かったと思う。
感謝している。
ふと、銀時は眼をそらした。
「……てめーはやっぱり堅ェよな」
ボソッと言った。
しかし、そのあと、少し肩を揺らせて笑った。
その眼がふたたびこちらに向けられる。
桂を見る。
「つーかさ、これからのほうが長ェだろ」
銀時は冗談のように軽く言った。
だから。
「ああ、そうだな」
そう返事をして、桂も笑った。





振り返ってみれば、長い道がある。
けれども、きっと、まだ、途中。







作品名:長い道 作家名:hujio