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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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「綺麗だなぁ…」


橙色に染まった西の空を見上げ、目を細めながらエドが呟くように言った。


「…そうだな…」


エドの視線の先を追い、ロイが相槌を打つ。

普通なら、夕焼け空を見上げればそれを綺麗だと思うだろう。

しかし、ロイは素直に黄昏時の空を綺麗だとは思う事が出来なかった。

きりり、と、胸が痛む事はあっても。

郷愁を漂わせる筈の夕焼け空は、ロイにとっては辛い、色だった。

夕焼けが、辛い訳では無い。

あの色が、辛いのだ。

真っ赤に燃える、焔の色。

イシュヴァールの街を焼き、人々を焼いた、焔の色を。

橙色の空を見る度、思い出すのだ。

もう、何年も前の事の筈なのに、あの光景が鮮明に蘇って来る。

爆発が起こる度に、むかつくような火薬の臭いがする煙のかたまりにすっぽりと包まれた事を、思い出した。

耳をつんざく恐ろしい爆音。

地面は、まるで地震のように上下左右に揺れた。

間断無く落ちて来る砲弾に、全ての者達の神経は参ってしまい、それらは彼等から生きる喜びを感じる力を
奪い去って行った。

衛生兵を呼ぶ声を幾度も聞いているうちに、それが当たり前のBGMのように聞こえ始めるようにもなって行った。

だが、ふと我に返り、今自分が戦火の中に居るのだと再認識した時、余りの恐怖に一時的に視覚を失った。

その時傍に居たヒューズがロイに声を掛け、ロイを落ち着かせる事で視覚は回復した。

そんな日が、毎日続いていた。

内乱が終わって暫くは、夕焼け空を観る度に、余りに辛くて逃げるように西の空に背を向けた。

日暮れ前に司令部を出るのが嫌で、仕事が終わっても陽が落ちるまでは外に出ようとはしなかった。

身体の中が、不快感で一杯だった。

余りに気持ちが悪くて、二度と出たくは無いと思った。

そんな辛さを、思い出すから。

だから夕焼け空の色は、痛い。


「大佐?」


相槌を打ったまま、何も言葉を紡ごうとしないロイに、エドが声を掛けた。


「どうしたの?」


具合でも悪いのかと言うように、少々心配そうな瞳で。


「ああ・・・いや・・・何でも無い・・・」


浮かべて見せた笑みは、何処かぎこちないと。

自分でロイは思った。


「見惚れて、いたのだよ。」


あの夕焼けに、と続ければ、エドはにっこりと微笑んで見せた。

咄嗟に口をついて出た、苦し紛れの言葉。

いつか、本当に。

あの橙色の空が美しいと思える日が来るのだろうか。

そんな事を考えながら、ロイは空に向けていた視線を、外した。



                          Fin.