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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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「何だか目が冴えちゃった・・・」


いつもならもうとっくに眠っている時間なのに。

私はサイドテーブルに手を伸ばし、ラジオのスイッチを入れた。

ジジジ・・・と思っていたより大きな音がスピーカーから上がり、慌てて音を小さくした。

余り大きいとばっちゃんを起こしてしまう。

適当にチューナーを合わせていると、漸く普通に声が聞こえて来た。

それが何のチャンネルかは解らなかったけれど、そのまま流す事にして、仰向けにベッドに倒れこんだ。

暫くぼんやりと聴いていると、それはどうやら歌の番組らしく、たまに名前を耳にする歌手の歌が流れていた。


やがてひとつの番組が終わり、次の番組が始まった。

さっきのテンポの良いトークとは打って変わり、落ち着いた女の人の声が流れて来る。

どうやらこの時間は特集を組むらしい、とラジオの中の彼女の言葉で理解した。

特集なんて組まれても、私にはさっぱり歌手の名前なんか解らなかったし、興味も無かったけれど、
ラジオを消す気にもなれなかった。

それはきっと、この歌手の歌がどこか懐かしく、暖かく、悲しかったから。

中性的で、柔らかくて、透き通った声をしたその歌手の名は、『テス』と言った。

そう言えば少し前に失踪したと新聞で観た歌手の名がそんな名だった気がする。

あの人は、こんな歌を歌う人だったのか。

ぼうっ、とそんな事を思っていると、又違う歌に変わった。

さっきとは全く違う感じの歌。

同じ人が歌っている筈なのに、声も全く違って聞こえる。

凄いなぁ、と思った私の胸が、不意に綴られているその歌詞に小さく痛んだ。

私は思わず身を起こし、ラジオに向き直った。

スピーカーから流れて来る歌は、まるで私の心の声をそのまま紡ぎ出しているかのようだった。




「じゃあな」と軽く手を挙げ
この場所を去って行った君
今何処で何をしているの?
君が居ない風景は鮮やかじゃなくて
何もかもが物足りなさそうにそこにあるんだ

「つまんない」と無意識に呟いたのは
もう数え切れない程で
溜め息ばかりが大きくなる
君と居た時間がまるで幻のようで
消えそうな思い出達を一生懸命護っているんだ

君は少しでも思い出してくれているのかな?
この場所を
この風景を
私の事を

どんなに離れていても
心は繋がっているんだと
ずっと信じてる
だから待っているよ
君がいつここへ戻って来てもいいように


「お帰り」と微笑って言える日が
いつかはちゃんと来ればいいと
願って空を振り仰ぐ
私を見下ろす9番目の雲が
雨じゃなくて君を連れてくるのを待っているんだ

「ただいま」と言う言葉をいつちゃんと
君の口から聞けるだろうなんて
考えながら夢を見る
変わらない笑顔を向けながら
何も無かったように帰って来る君を描くんだ

君はちゃんと夢に向かって歩けているのかな?
少しずつ
少しずつ
確実に

どんなに離れていても
君の夢はきっと叶うと
ずっと信じてる
だから待っているよ
君が願いを叶えてここへ戻って来る事を




何時の間にか。

私はラジオを見詰め、泣いていた。

心の中が、溢れ返ったようになって。

どうしようも無くなっていた。

そうだ。

私はあいつらを信じてやんなくちゃいけないんだ。

だから私も、強くなんなきゃならない。

あいつらに負けないくらい、強く。

今迄みたいに背中を見続けるんじゃなく、肩を並べられるように。

私はぐいっ、と、パジャマの袖で涙を拭った。

もう、泣かない。

泣いてなんかいたら、あいつらに置いて行かれる。


エド。

アル。

待ってなさいよ。

これからは今迄見続けていたあんたたちの背中を追い掛けてやるんだから。


私はラジオを消し、夜の空を見上げた。

この間までそこにあった夏の星は、その席を秋の星に譲り始めていた。



                                  Fin.