ハガレン短編集【ロイエド前提】
harmony
「はー・・・」
東方司令部の食堂、その窓際のテーブルで、アルは深く溜息を付いた。
ここ最近のエドの荒れようと来たら、酷い物だ。
数日前に、久々にロイに会えると胸を躍らせ司令部にやって来たエドだったが、入れ違いに
セントラルへ向かったと聞かされ、途端にアルに八つ当たりを始めた。
アルは自分に矛先が向く事で一般人に迷惑が掛からなければ良いと耐えていたが、それでも
やはりアルにも限界があった。
エドがロイの執務室で眠っている隙につかの間の休息を取る為に、アルは昼食時間をとうに
過ぎた誰も居ない食堂に足を向けたのだ。
ぐったりとしたように壁に身体を凭れ掛けさせ、ぼんやりと窓から外を眺める。
演習場で訓練をしている下士官達がの姿が、陽炎の向こうで揺れている。
あぁ、何だか夢でも観ているようだ、と、アルは思った。
先程までの騒々しさを思うと、特にそう思う。
「はあぁ・・・」
もう一度、大きく。
アルが溜息を付いた時、不意に窓の外から声がした。
「何溜息なんか付いてんだ?」
はっとアルが我に返ると、窓の外でハボックがひらひらと手を振っていた。
「ハボック少尉!」
ハボックは窓の桟に腕を組むように置くと、アルを見上げた。
「エドはどうした?さっきまで元気に暴れてただろ?」
「あぁ・・・兄さんは今大佐の執務室で寝てるんです。だから僕、ちょっとその間に休もうかと思って」
「お守りも大変だなぁ」
アルはハボックの言葉にあははと笑うと小さく息を吐いた。
「ハボック少尉も今休憩中なんですか?」
「あ?ああ。大佐が居ないからな。毎日が休憩中みたいな物だ」
そう言って、ハボックはふぅっ、と煙草の煙を吐き出した。
「いいの?そんな事言って」
「あぁ、いいのいいの。たまにはこんな事でも無いとな。癒しの時間も必要だ」
「癒し、かぁ・・・僕も癒されたいなぁ・・・」
テーブルに肘を付き、頬杖を付きながら、ぽつりとアルは言葉を零した。
「僕・・・101匹猫ちゃんに囲まれて一緒に戯れたい・・・」
ほわりと紡がれた言葉に、ハボックは乾いた笑いを漏らした。
「まぁでも、エドの機嫌ももうすぐ直るだろうよ。ホークアイ中尉からさっき駅に着いたって
連絡あったからな」
「ほんとに?」
アルは思わず声を上げた。
これでエドの八つ当たりも無くなる。
「やっと平穏な日々が戻って来る・・・」
ハボックは「良かったな」と紡ぐと新しい煙草に火を点けた。
「調和が取れるってのは良い事だ」
何に関しても。
ロイとエドの関係が上手く行ってくれていると、周り全体も程良く整って来る。
「・・・喧嘩さえしてくれなきゃな・・・」
ぽつりと言葉を零し、ハボックは空に向かって大きく煙を吐いた。
その頃。
漸く司令部に戻ったロイは、執務室のドアを開けソファーで穏やかな寝息を立てているエドに、
安堵したようにその表情を綻ばせていた。
Fin
作品名:ハガレン短編集【ロイエド前提】 作家名:ゆの