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ラボ@ゆっくりのんびり
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novelistID. 2672
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そして僕らは鳥籠の中

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 まるで鳥籠のようだと思った。

 慶次くんの長くて豊かな髪の毛が重力にしたがってさらさらと僕の身体の上に落ちてゆく。真っ直ぐで真っ黒な髪の毛は夜の闇に紛れて消えてしまいそうだが、くすぐったいくらいちらちらと触れるたびにそこにあるのだと思い知らされるようだった。黒くて真っ直ぐな髪の毛は僕にはないものだ。色素が薄くてふわふわする僕の髪の毛は慶次くんのそれと正反対のようだった。同じものとはまったく思えなかった。


「はんべえ、」


 慶次くんの、まるで泣き出しそうな声が帳の中で反響する。今世界は慶次くんの髪の毛によって出来た帳の中に居る僕らとそれ以外の二つに分けられた。月明かりも届かない薄暗い部屋所為で慶次くんの目も鼻も口も全部ほのかにしか見えなかった。手を伸ばして触れればようやく分かる程度の明かりの中、それでも慶次くんの視線だけはまっすぐ僕に注がれていることは分かった。
 他の世界とは遮断された空間。しかし他の全てが待つ世界へ行くのはひどく簡単だった。慶次くんの頬に滑らせた手のひらをそのまま横に振って柔らかな髪の毛を揺らしさえすればいいだけの話だ。鳥籠よりも脆い。鳥籠よりも自由を求められる。
 けれど、


「半兵衛」

「うん、」

「半兵衛」

「……っあ、」

「はんべえ……っ」

「………っ!」


 けれど、こんなに弱く脆い鳥籠から一歩たりとて逃げ出そうとしない僕は愚鈍そのものなのか。いや、逃げ出そうとしないだけでなく、自らその籠の中に飛び込んでゆくことこそが気が狂った証拠なのではないだろうか。
 薄い口唇が緩やかに持ち上がる。馬鹿な自分を嘲笑うように。馬鹿な僕を愛する慶次くんを哀れむように。
 鳥籠の中で行われる秘密ごとは夜の闇に溶けてゆく。愚かな二人をせせら笑うように。冷たい現実へ引き戻すように。