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ラボ@ゆっくりのんびり
ラボ@ゆっくりのんびり
novelistID. 2672
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Kiss Of Lie

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「慶次くんはいつも嘘ばかりだ」


 藤色の仮面に隠された瞳が嘲笑うような色をたたえながら真っ直ぐと俺に向けられる。唐突に投げられた言葉の意味が理解しきれないまま、俺はぽかんと口を開けそうな勢いで半兵衛を見返した。半兵衛の言葉が指す意味を、俺が理解し切れていないことを半兵衛はすぐに悟り、憐憫すら滲ませた様子でもう一度口を開いた。


「君はいつも恋だ愛だなんて口にしているけど」


 血色の悪い口唇が言葉を紡いでいく。薄い口唇と同じように細められていく藤色の瞳に憐憫を越えて嘲弄すら見えた気がした。
 俺は黙って半兵衛の言葉の続きを待つ。たとえ聞きたくないとごねたとて半兵衛がその願いを聞き入れてくれるとは到底思えなかった。


「ほんとうは誰かを愛したことなんて一度もないくせに」


 一陣の風が、びゅう、と吹いた。俺と半兵衛の間に大きな溝を作るように。この場所からその場所へ決してたどり着けないように。けれどそれはただの杞憂にも似たもので、俺が足音を立てて一歩踏み出しても地面は崩れることなく、俺を拒否することもなく、ただ黙ってそのまま存在していた。一歩踏み出すと半兵衛との距離が縮まる。半兵衛はそれを一瞬ちらりと見ただけで決して後退も前進もしなかった。ただ真っ直ぐに俺を見据えていただけだった。その瞳からは何の色も伺えなかった。


「そんなことないって言ったらどうする。──アンタだけは本気で好きだって言ったら?」


 戯れのように口にする。もう半兵衛には何度も「好きだ」とか「愛してる」とか伝えていたから今さら照れることなんてひとつもなかった。
 半兵衛も半兵衛で生娘みたいに頬を染めることなどせずに一度だけ鼻を鳴らしてから頭を振った。馬鹿にはついていけないよ、と言うように。


「その目だよ。……その目のどこが僕を愛してるって言うんだい」


 つ、と細い指先が俺を指す。


「嘘吐き」


 伸ばされた指先をくいと引っ張り、嘘吐きと紡いだばかりの口唇に口付けた。冷たい接吻だ。半兵衛は心だけでなく体温もすこぶる低い。熱を分け与えるように何度も何度も執拗に重ねては舐って噛み付いた。


「うそつき」


 口付けの合間で途切れ途切れに繰り返す言葉を耳で拾いながら、俺は喉の奥でくつくつと笑った。