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【Noelシリーズ 1 】Noel-ノエル-

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クリスマスイブの夜は、いささかハメを外してしまったようだった。

いつもなら、必ず顔を出すウイズリー家が大集合する隠れ穴での騒々しいパーティーに今年も招待されていたけれど、ハリーは参加しなかった。
ドラコも例年どおりマルフォイ一族が集う、おごそかで豪華なパーティをキャンセルした。

クリスマスは家族で祝うものだ。
だから、いっしょに暮らし始めて初めて迎えたイブの夜を、ふたりは親密に楽しく盛大に過ごした。
しかし、それはかなり『親密』すぎたかもしれない。

気が付けばクリスマスの朝になり、日が差し込み部屋は明るかった。

パチパチと木のはぜる音が暖炉から聞こえてきて、一晩中燃え続けていた炎で部屋は少し汗ばむほど暖かい。
瞳を開き見上げると、緑色のどっしりとした枝が見えた。
魔法で作られた溶けない雪と共に、色鮮やかなクリスマスボールがモミの木に吊り下げられている。
その天辺に飾られている星はピカピカと輝いて素晴らしい光を放っていた。

テーブルには食べかけのケーキやシャンパン、ワインなどが乗っている。
床にはクラッカーの紙テープと金箔が広がっていた。
椅子が意味もなく倒れていて、暖炉に吊り下げられた靴下は下に落ち、つえの形をしたカラフルで大きなキャンディケインはなぜか、天上のシャンデリアに引っかかっていた。

──かなり楽しいパーティだったらしい。
二日酔いで頭が痛くなるほどに。

まるで自分たちがクリスマスプレゼントのように、大きなツリーの下のリボンがかけられたラッピングの山を押しのけて、空いたスペースに、二人して丸まって眠ってしまっていた。

ハリーはサンタの赤いズボンを腰までズリ下げたまま、上半身は裸だし、ドラコにいたっては全裸に金のモフモフとしたモールを巻いているだけだ。
しかもご丁寧に首には赤と緑のリボンが絡み付いている。

二人してノリで、昨晩は『サンタプレイ』を楽しんだらしかった。
あまりはっきりとした記憶はなかったのだけれど……。

ズキズキとする二日酔いの容赦ない頭痛に呻いていると、ドラコの上に覆いかぶさるようにして眠っていたハリーも目が醒めたらしい。
相手が眉を寄せているのに気付くと、「頭が痛いの?」と、ハリーは掠れた声で尋ねた。

ドラコが頷くのを見て、ハリーは愛おしむように恋人のほほを撫でると、ゆっくりと立ち上がる。
半分尻が見えそうなほどずり下がったズボンを引き上げながら、ハリーはキッチンへ向った。

冷蔵庫のドアの開け閉めする音がして、すぐに大きめのマグカップを手に戻って来ると、なみなみと入ったミルクを差し出す。
蒸し暑い部屋で喉が渇いていたドラコはそれを受け取り、すぐに飲み干した。
空いたコップを手にハリーはまたキッチンに戻ると、再びカップにミルクを満たして戻ってくる。

「もうたくさん飲んだから、お代わりはいらない」
断ろうとするけれど、「せっかく持ってきたんだから、とりあえず受け取って」とドラコに押し付けてきた。

ハリーの親切を無碍にも出来ず、ドラコが大人しくカップを受け取ると、中のミルクがモゾモゾと動き出した。

「ハ……、ハリー!!ミルクが生きている!」
ドラコが大声で叫んだ。

ハリーは滅多に見ることがないドラコの驚く声と表情を見て、派手に笑い転げ始める。
「ちがうよ。カップの中をよーく見て」

見開いた瞳のまま、恐る恐る自分の持っているカップを再び覗き込むと、カップの中の白いものは上に盛り上がり「ニャー」と鳴いた。

カップから両耳がぴょこりと立って、白いフサフサの毛並みの何かが顔を出した。

「……猫?キティ?子猫がマグカップに入っているぞ、──なんで?」
大きく見開いた瞳をそのまま、ハリーに向ける。

「どう、かわいいでしょ?君にプレゼントしようと思って、用意していたんだ。君は猫を飼ったことはある?」
ドラコはゆっくりと首を振る。

「ない。家にあった家具はアンティークばかりだったから、爪を研ぐ猫は飼うことが許されなかったんだ。―――だけど僕はずっと猫が飼いたかったんだ。とても……」
おずおずと慣れない手つきで指を差し出すと、子猫は小さな舌先を出しドラコの指を舐める。
嬉しそうにハリーを見上げると、ハリーも上機嫌でドラコに笑みを返してきた。

「猫……。本当に僕のか?」
「そうだよ、君の猫だよ。大切にしてあげて」
ドラコは腕を差し伸べてそれを自分の胸に抱きしめた。

白くてフワフワの毛並みが心地いい。
薄いブルーの瞳で鼻は低かった。
子猫はドラコの唇を小さな舌で何度も舐めてくる。
ドラコはくすぐったそうに笑った。

「ハリー、猫ってこんなに舐めるものなのか?」
上機嫌な声を上げる。
「ミルクだよ。ついさっき君がミルクを飲んだから、その匂いに釣られているんだよ」
「ああ、そうなんだ。ミルクを用意しなきゃ」
ドラコは立ち上がり、さっきまで猫が入っていたカップにそれをついで来ようとする。

「猫は猫用のミルクがあるから、それにしなきゃ、お腹を壊すよ」
「へぇー、そうなんだ」
ドラコは珍しそうに頷いた。

ハリーが用意したミルクに顔いっぱいに突っ込みながらミルクを舐める子猫にドラコはうっとりと目を細める。
「この頭が大きいところや鼻の先が黒いところもかわいいな。ああ、本当にかわいい……。ありがとう、ハリー」
ドラコは素直に礼を言った。
ハリーは「どういたしまして」と礼を返した。

「ところでこの子猫の名前は何にする?」
ドラコは自分に巻かれていたクリスマスカラーのリボンをほどくと、その猫の首にやさしく巻いてやり、そして微笑んだ。

「彼女の名前はノエルにするよ。大きくなったら、きっと、とびきりの美女になるだろう」
目を細めて、そのかわいらしい鼻を軽くつついたのだった。


                   ■END■