ねむることみること
つられてそちらを見ると、愛すべきリーダーが座敷スペースの上で見事に寝入っていた。
腹の上できちんと揃えられた両手が妙に行儀のよいものに思われて、笛吹の笑いを誘う。普段の藤崎からは信じられない程大人しい様子である。
寝顔は、存外に静謐なものだった。あぁこんな顔立ちなんだな、と今更に笛吹は確かめて、妙に感心した。元の造形に見覚えがないと感じてしまうほど、藤崎は表情豊かな人間で、本来ならば数秒たりとも同じ形に留まらぬ顔面だ。
だが今は何の感情の機微も映さず、ただ瞼を閉ざしただけの無防備な状態だった。
彼が気まずさや緊張を感じている時の、あの複雑で情けない顔のほうが見慣れているくらいだ。くるくるとよく動く茶色の瞳も、すぐにへの字になってしまう口元も。変に落ち着きを見せているせいで、笛吹のほうが不思議に居心地の悪い気分になった。よく知っていると思っていた相手の見知らぬ一面を見せつけられているようで、苛立ちやら悔しさやら悲しさやら、それらがごちゃ混ぜとなった感情に、単純に新たな一面を見つけた喜びも加わって。
つまり、笛吹は動揺した。
それを知らぬものとするように、笛吹はわざと藤崎の寝顔を睨むように見た。ふいに、いつもこうなら、と思った。本人が嘆くほど取り柄のない容貌でもないだろうにと気付く。自他共に認めた美形である笛吹の目から見ても、少年らしく、存外に可愛げのあるそんな顔立ちである。
しかし、その発見はどうあっても面白くないものに思われたので、笛吹はパソコンの画面に向き直った。腹いせに何か騒音を出して藤崎に嫌な寝覚めを提供するため、操作を進めながら。