軽挙妄動
Episode.1 切欠
何度目かの、ぱん!と言う音が部屋に響く。
錬成の光が部屋を満たし、消えてはまた、ぱん!と言う音が上がる。
久し振りに司令部を訪れたエドは、ロイを待つ間、倉庫に置き去りにされたガラクタと呼ばれる物達を
修理していた。
偶々倉庫の前を通りかかった際、フュリーが一人で山のようなガラクタ達を修理していたのを見て、
大変そうだからと手伝いを買って出たのだ。
最初は二人で作業していたのだが、他の部署からフュリーが呼び出されてしまい、フュリーは申し訳
無さそうにエドに後を任せて行ってしまった。
快くそれを引き受け、今に至ると言う訳だ。
「ふぅ。」
漸く1/3程片付け、一息付く。
何気に残りの山に視線を移したエドは、その中に小さな軍服を見つけた。
それは3、4歳位の子供が着られそうな大きさの物だった。
手に取って見ると、襟元に『サンプル』と書かれている。
一体何の為のサンプルなんだろうと首を傾げながら子供服サイズの軍服を見つめ、それを修理済みの
山に置いた。
ふと子供のロイを想像し、頭の中で軍服を合わせてみる。
思い浮かべた様子が余りにも面白かったので、エドは思わず噴き出した。
「見てみたかったなぁ♪ちっちゃい大佐♪」
そう、言葉を紡ぎながら、ぱん!と手を打つ。
「鋼の?」
不意に声が聞こえ、振り返ると、開いたドアの隙間からロイが顔を覗かせていた。
「大佐!」
ぱぁっ、と顔を輝かせ、エドは立ち上がった。
「仕事、終わったの?」
ロイに駆け寄り、言葉を紡ぐ。
「ああ。もう帰れるよ。時間に余裕があるから、今日は外で食事をしようか。」
にっこりと微笑み、ロイがそう返せば、エドは嬉しそうに頷き、ロイに抱き付いた。
ロイの胸に顔を埋め、背中に腕を回す。
両手がロイの背に触れた、その瞬間。
ぱぁっ!と、ロイの体が光に包まれた。
え?
一瞬、何が起こったのか把握出来なかった。
「錬成反応?!何で…」
言葉を紡ぎ掛けて、エドははっとする。
先程修理を続けようと手を合わせてすぐにロイに呼ばれ、そのままだった事を思い出したのだ。
「しまっ…」
弾かれたように顔を上げると同時に。
「うああああぁぁぁ!」
ロイの口から、叫び声が上がった。
「大佐っっ!!」
エドが声を上げた瞬間、エドの視界からロイの姿が、消えた。
それに伴い錬成反応の光もフェイドアウトする。
目の前で起こった事態に蒼白になり、エドはその場に立ち尽くす。
「……ど……どうしよう……」
半泣きになり、エドは呟いた。
「俺・・・大佐の事・・・消しちゃったのか・・・?」
がくがくと、身体が震える。
ふと。
もそりと何かが足元で動いた。
「え・・・?」
視線を落とすと、そこにロイが着ていたと思われる軍服が、あった。
そして。
軍服に埋もれるように座り込んでいる、子供が一人。
何処かで観たような、顔。
「一体何が起こったのだ・・・?」
言いながら頭を押さえるその手の先には、余った袖が長くぶら下がっている。
エドの目が、点になった。
ま・・・さか・・・
そう、思った時、その子の視線がエドを見上げた。
そうして小さな口が、開かれる。
「鋼の?どうかしたのか?」
その言葉に、エドは眩暈を覚えた。
嘘だろ・・・おい・・・
「鋼の?」
不思議そうに見上げる瞳。
「た・・・大佐・・・?」
小さく言葉を紡げば、「何だね?」と可愛らしい声が返された。
まさかとは思ったが、どうやら本当にロイらしいと確信する。
『見てみたかったなぁ♪ちっちゃい大佐♪』
そう、言葉を紡ぎながら、手を打った。
ロイが消えてしまわなかったのは、幸いな事だけれど。
しかし・・・
目の前でだぶだぶの軍服に身を包んだロイを目の当たりにして、エドは頭を抱えた。
恐らく4歳児位の姿。
ぷにぷにの頬。
可愛らしい声。
大きな軍服の襟元から覗いている、幼い身体。
余りにも、元のロイとは差が有り過ぎる。
誤魔化す事など、勿論出来る筈が無く。
「鋼の。」
目の前でエドが自分を見下ろしながら見せている表情に、一体何なのだと言いたげに眉間にうっすらと
縦皺を刻んだ様に、どうやらロイはまだ自分の置かれた状況を把握していないようで。
「えー・・・と・・・」
取り敢えずロイにこの事態を伝えなければと、エドはたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。
「あ・・・あの・・・大佐・・・実は・・・」
あぁ・・・駄目だ・・・言いにくい・・・
言い掛けた言葉が、喉の奥に引っ掛かって出て来ない。
エドは辺りを見回し、壁に立て掛けられた鏡を見つけた。
そうして。
「あ・・・え・・・と・・・あの鏡・・・観て欲しいなぁ・・・なんて・・・」
その方が、エドが話すよりも手っ取り早い。
「鏡?」
ロイの視線が鏡に移る。
「埃が被っているな。」
紡がれた言葉に、がくりとエドは肩を落とす。
何てお約束なボケを・・・
確かに、ロイの位置からではほんの少し身を乗り出さなければ、ロイの姿は映らない。
エドは鏡の前に移動すると、立て掛けられた鏡を手に取り、ロイの方に向けた。
ロイの姿が、鏡に映し出される。
数秒の、間。
「何だこれは?!」
漸く事態を把握したらしいロイが、声を上げた。
「私は一体、どうしたのだ?!」
鏡の後ろに隠れるようにしながら、こそっと顔だけを覗かせ、エドは小さく言葉を紡いだ。
「え・・・と・・・俺の所為・・・みたい・・・」
「な・・・っ・・・」
「・・・ごめん・・・」
消え入るように、エドはぽつりと言葉を零した。