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連れ去ってくれるなら海がいい

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 どうにもやりにくい。

 帝人は片手を捕まれたまま、はあ、とひとつため息をつき、まあ、どうにもならないよなあ、と思い直して、あいている手の方で、パソコンのTVチューナー用のリモコンをいじった。どれもこれもつまらないものばかりで、浮いている沈黙もため息も消してくれない。「………、臨也さんて、僕の手、よく握りますよね」、と、帝人はあきれたようにいう。
 4畳半というのはそう広くない。ほんの数歩あるけば、ほんのすこしうごけば、すべてのものに手が届く距離だ。家電なんてパソコンと炊飯器くらいしかない寂しい部屋だけれども、ただでさえ狭い部屋だ、ぴったりとくっつかれるのはとても息苦しい。相手が折原臨也というだけでももう、十分なのに。「なんでですか?」、と帝人は、彼の左手を握ったまま、横になっている臨也に聞いた。
「このまま連れ去ってしまえるからかなあ」、と嘘とも本当ともとれないような調子で彼はいう。帝人ははあ、とよくわからないような返事をして、あの、臨也さん、そのまま寝ないでくださいよ、と念を押した。
 部屋を借りている自分は、自分の部屋だというのに全く落ち着けないのに、どうしてこのひとはこんなにくつろいでいるのだろうと帝人は不思議に思う。「もしくは、帝人くんがつれさってくれるかもしれないし」。臨也がそういうので、帝人は思わず「誰をです?」と臨也へ聞き返した。「俺を」。そう告げた臨也の声に、まどろみが混じり初めたのに、帝人はまだ気がついていない。帝人は困ったように軽くため息をひとつつて、「いや、それはないです…、どこかへいきたいんですか?」、と臨也へきいた。
「つれていってくれるの?」、と臨也は目だけで帝人を見上げる。視線はあわなかったけれども、帝人が困ったような顔をしているのは確認できた。
「聞いてみただけです」、そうすぐに帝人が言ったのにもかかわらず、臨也はふ、と顔をゆるめて、「それなら俺、海がいいなあ」、と言う。いきませんよ、と帝人はさめた声で言うけれども、彼は目を閉じて帝人の手をまたぎゅうと握るのだった。

 本当にこのまま連れ去ってしまわれそうだと帝人はふと思う。放してくれそうにないのなら、このまま。
「聞いてみただけっていってるじゃないですか」、と帝人はリモコンを動かす手をとめて、あきらめたようにそれを机においた。ことんと小さく木の音が響く。「聞いてます?」、帝人はテレビから視線をはずして、まだ握られたままの手を振り向いた。それと同時に、ことんと臨也の頭もまどろみへ落ちた。