僕だけの
「ナナリー、具合はどうだい?」
「大丈夫ですわ、お兄様」
こいつは最近具合が悪くなる事が多い。
きっと本人に言えば『お兄様がかまってくれないから体が拗ねちゃったんですよ』とお約束の甘い言葉を吐くに違いない。
ただ僕が思うに、この言葉は嘘ではない。
とにかく僕はナナリーの事を真っ白で可愛い奴じゃないんだと兄さんに言ってやりたいんだ。
「ほらナナリー口開けて」
「ありがとうございますお兄様」
――ほら見ろ。
兄さん特性のお粥を口に含みながらナナリーがこっちを見てほくそ笑む。
まさに悪、凶悪だ。
その目は『お兄様は私の事の方が愛してるのよ』とでも言いたげで……。
「………チッ」
血の繋がりも無い、子どもの頃の思い出すらない。
明らかに不利だ、この兄争奪戦は。
(――あぁ殺してやりたい)
毎日何回思っている事だろう。
僕もこの美しく優しい兄さんが欲しい。
それはもうたまらなく
欲しい
欲しい
欲しい
欲しい
欲しい。
「ロロ」
「なに?兄さん」
「話があるから俺の部屋に」
「ん、わかった」
今度はナナリーだけに向けられた目が今は僕だけを見ている。
兄さんの顔は少し不安が滲んでいたけど、そんな事に満足した僕は兄さんより先にナナリーの部屋を出た。
嫌いな奴の匂いが充満している部屋に居なくちゃいけないなんて御免だ。
けど……そこに兄さんが居るなら。
僕は地獄までも着いて行くよ。
兄さんの望みじゃなくっても。
「ロロ、スザクが俺たちが生きている事に感づいたらしい」
兄の目はいつになく同様している。
それはそうだ。
ゼロレクイエムで思いを寄せている人物を刺すこととなったスザクが手元を狂わし兄さんの急所を外してくれたおかげで、ギアスによって忠誠を誓わせられた者達が内密に、ルルーシュを最新の医療器具を使って治療してしまったのだから。
「スザクは俺を殺しに来る……」
兄さんがゼロレクイエムで死んでいなければゼロレクイエムの意味が無い。
スザクは兄さんを一思いに殺せなかった事を後悔したはず。
そして―――。
「大丈夫。探しに来るとは思うけどスザクさんが兄さんを殺すことは絶対ないよ」
(本気で思っている人を…もう一度殺める事なんて出来ないだろう。しかもあいつは直前まで悩んでいた………本当に兄さんを殺して良いのかと。)
僕は兄さんの体温を感じたくなって両手を握りしめる。
すると人の体温に安心したのか彼は顔を歪ませて本音と涙をポツポツ落とした。
「決意したんだ……」
うん。
「ゼロレクイエムを成功させると」
うん。
「けど……心のどこかでは、俺ならそんな事しなくてもやれるとか、大切な人達と一緒にいたいとか思ってて……」
知ってるよ兄さん。
「生きたかったんだ……!!生きたかった!!」
「兄さん落ち着いて、全部わかってるから。……大丈夫、ここはC.Cさんが手配してくれた場所だから、当分見つからないって。」
(万が一見つかっても、たとえ兄さんに危害を及ばさないとしても)
「僕の命が尽きてもいい。ギアスを使って……かならず奴から隠してあげる」
ギシッ
兄さんはベッドに僕を押し倒した。
吐息が顔にかかるほど距離が近い。
「ずっと俺のそばにいろ」
「うん」
僕は兄さんに長い長いキスを落とした。
息を荒くする姿はとても綺麗で……。
(ナナリー。兄さんの醜い姿、考え方、本性……君は何も知らない、兄さんは君に全てをさらけださない。君より愛される事は一生ないだろうけど、そこは僕の勝ちだよね…)
僕はつい笑みをこぼした。